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満を持して登場した女の姿を見て、客席からは落胆のため息が漏れました。蛇女の正体はただの儚げな若い女の人だったのです。
女は長い髪を垂らして艶めかしい、赤い襦袢を着ておりました。襦袢から出た手足、顔や首は透き通るように白くて、蛍光灯のように自ら発光しているようでございました。
赤い唇も目を惹きました。大勢の客は期待はずれどころか直ぐ様、妖しく光る女の姿に釘付けにされたのです。
しかし女が儚げな姿をしていたのはここまででした。女は手に持った籠を床に置くと白い紐をつまみ出した……と思いましたが手にしたのは20センチほどの小さな白い蛇でした。
白蛇は女の手から腕へと這い上がり首筋を舐めるようにクネクネと這い回ります。時々動いているのが蛇なのか、蛇を追う女の指なのか分からなくなったりしました。
ひと仕切り蛇と戯れた女は親指と人差し指で蛇を掴んで、なんと唐突に自分の鼻の穴に蛇の頭を押し込んだのでございます。
客席はざわつきました。
ざわつきが収まると今度は蛇が鼻の穴にするする入って行くのを固唾を呑んで見ました。私は現実を忘れて蛇女に見惚れていました。そして半分ほど蛇の体が見えなくなった所で女は突然、喉のおちんこが見えるほど「かあ──っ」と大口を開けたのでございます。
それはそれは恐ろしい形相でありました。
皆、蛇女の口を凝視します。すると蛇の頭が喉の奥からニョロっと這い出て、口から頭を出すと二つに別れた舌をチロチロと動かしました。そして僅かに残っていたしっぽはチョロっと中に吸い込まれて行きました。
女は口を開けたまま蛇の頭をスルスルと引っ張り出しました。赤い口から白い蛇が生まれ出たようでした。そこで客席からパラパラと拍手が起きましたが大概の客は唖然とした様子で舞台の女を見ておりました。
よくよく考えると地味な芸だったのかもしれませんが、あまり娯楽のなかったあの時代に田舎者の客を黙らせるには充分な芸でございました。
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