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『蛇女がんばれ……』私は祈るように見ておりました。
さあいよいよドラムは囃し立てます。早く早くと急かしているようでした。
ドラムに追い立てられて決心したのか、ひよ子を見る女の表情が先程の蛇女の顔付きにキリっと切り変わリました。目も少しばかり見開かれたように思いました。
蛇女はゆっくり口を開けると鳴き続けるひよ子の小さな頭を口に入れるや否や、思い切りグシャっと噛み、片手でグイっと乱暴に引き千切ったのでございます。
黄色い羽がふあっと宙に舞いました。
赤い血が女の手を伝わって細い筋になり白い手首にツ──っと赤い線を引きます。
「きゃっ」という女の人の小さな叫び声が会場から上がりました。
蛇女は表情も変えず、ひよ子の頭をゴリゴリ二三度咀嚼すると「ぺっ」と床に吐き捨てました。口の周りはひよ子の血と紅とで赤く染まって黄色のふわふわした羽がペタリペタリと張り付いていました。
女の手から無造作にポイっと床に捨てられたひよ子の胴体は欠落した頭を探し求めるように少しだけトコトコ走ると、偶然か潰れた頭の辺りでパタリと絶命したのでした。
女はゆっくり客席を見渡すと少し乱れた黒髪と赤く染まった口元で異様さを増し、スポットライトの下で物の怪のように立っておりました。そこでふっと照明は消え、女はスススっと現れた黒子に手を引かれ舞台の袖に引けたのでございます。
まるで夢の中にいるようでした。外にいつもの市場がある事なぞすっかり忘れるほどでした。
ポスターとは全く違った蛇女ではありましたが、凛として客の度肝を抜いたパフォーマンスはその世界で生きる女の覚悟と執念までも垣間見えるような胸を熱くさせるものでございました。一頻り感情移入していた私は死んだひよ子の事はさて置いて、手が痛くなるくらい拍手を贈りました。
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