赤いテントと蛇女

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 テントを出ると外は涼しい夜の風が吹いておりました。母親は少し機嫌を悪くしたようでした。母親は江戸川乱歩の小説なんかを好んで読んでいた様な人なのですから、もう少し蛇女を楽しんでも良かったのではと今では思います。  その日は一生涯忘れられぬ日となりました。異様な空間の中で繰り広げられた美しくも哀しい蛇女の世界。恐さや残酷さよりも蛇女の妖しい美しさの方が私の心を強く掴んだのでありました。  二三日経った午後でした。先だって話しましたあのお姉さんが飛び上がるよう話を持ち込んだのでございます。お姉さんは学校帰りの私を家の角で待っておりました。私を見つけると小さく手招きいたします。 「ちょっと、こっちにおいで」  私はきょとんとしてお姉さんの元へトコトコ駆け寄りました。お姉さんは私の腕をグッと自分に近づけると耳元で囁きました。 「蛇女に会いに行こうよ」  私は何が何やら訳がわからず、ただ「うん」と頷きました。
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