35人が本棚に入れています
本棚に追加
色違いの景色
「智くーん! サインして!」
「あたしも、あたしも!」
学園祭最後のステージを終えて三人が袖に捌けようとした時、数人の女子が智を追いかけてきた。
「あー、と、今ペンとか持ってないんだけど」
「持ってるから! 持ってきたのよ!」
「マジか!」
ファンの子たちの必死。目元が前髪で隠れた智は、大きな口でニカッと笑って快く応じた。
彼女たちに倣って、数名が乗じる。それを見てまた数名がステージに押し寄せた。
「アイツはホームルームに間に合いそうにないな。俺たちは先に行くか」
ドラムを持った曹が無表情に行こうとするも、莉子は首を横に振った。
「私は智がくるの待ってる」
「……っそ。じゃあ、好きにしろよ」
振り返ることもない莉子の後ろ頭がまるで忠犬のようで、曹は思わず吹き出した。
「大島、三年間おつかれ」
その声にハッとして振り向くと、曹はもう背中を向けていた。
「後で打ち上げしようよ!」
莉子の言葉に、曹は親指を立てた右手を見せ、そのまま歩いていった。莉子は彼の背中が見えなくなるまで見送ると、相変わらずサインに追われている智を見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!