色違いの景色

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色違いの景色

「智くーん! サインして!」 「あたしも、あたしも!」 学園祭最後のステージを終えて三人が袖に捌けようとした時、数人の女子が智を追いかけてきた。 「あー、と、今ペンとか持ってないんだけど」 「持ってるから! 持ってきたのよ!」 「マジか!」 ファンの子たちの必死。目元が前髪で隠れた智は、大きな口でニカッと笑って快く応じた。 彼女たちに倣って、数名が乗じる。それを見てまた数名がステージに押し寄せた。 「アイツはホームルームに間に合いそうにないな。俺たちは先に行くか」 ドラムを持った曹が無表情に行こうとするも、莉子は首を横に振った。 「私は智がくるの待ってる」 「……っそ。じゃあ、好きにしろよ」 振り返ることもない莉子の後ろ頭がまるで忠犬のようで、曹は思わず吹き出した。 「大島、三年間おつかれ」 その声にハッとして振り向くと、曹はもう背中を向けていた。 「後で打ち上げしようよ!」 莉子の言葉に、曹は親指を立てた右手を見せ、そのまま歩いていった。莉子は彼の背中が見えなくなるまで見送ると、相変わらずサインに追われている智を見つめた。
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