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『野菜ソムリエ協会の品評会、トマトグランプリ2位』
智の家のビニールハウスの前には、そう書かれた特注ののぼりが、風に誇らしげにはためいていた。
「とーさん、ただいま」
最近、家の台所では父親がトマトを使った酒を試作している。
「おお、智。お帰り」
「お母さんは?」
「ハウス」
智は外に目をやった。台所の窓から見えるビニールハウス。母はきっと汗だくになって野菜の世話をしているのだろう。
「なんか手伝うことある?」
「うーん、テイスティングかな」
コップに下唇をつけてクンクンと匂いを嗅ぎながら呟く父に、「未成年だからムリ」と智は笑った。
母のために水筒にお茶を注ぐ。氷を入れる『トプントプン』という音が好きだ。
ハウスに入ると、いつものように鈴なりになっているトマトを見つめる。
植物の青い香りが鼻腔に入り、それを肺に取り込む勢いで吸い込んだ。
見えるのは全て、くすんだ黄緑色。
どれが熟れているのか判らない。
ーー智が継いでくれたらいいなあ。このハウス。
ーー当たりまえじゃん! 俺、パパのトマト有名にするし!
まだ色覚障害があると知らなかった、幼い頃。
熟れていなかったトマトを獲って食べた時、全然美味しくないと言うと「そりゃそうだよ」と笑われた。
幼稚園で真っ赤なイチゴを描くように言われて、使ったクレヨンは黄緑色だった。個性がありますね、と先生は少し困ったように笑った。
おかしいと両親が感じたのは、智が小学校高学年になって、ハウスでトマトの収穫を手伝った時。
まだ未熟な実を次々に収穫したことがきっかけだった。
その時に智は、自分が見ている世界が、他の人とは違うことを知った。
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