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「えーと、気を取直してもう一度。今日は俺たちの最後のステージです」
智が話すと、講堂は水を打ったかのように静まり返った。
彼の一言一句を聞き逃すまいと、前のめりになっているファンたち。莉子もその一人として、智を斜め後ろから見つめていた。
「この曲は、伝えるべき想いをまだ言えてない、全ての同学年の仲間に送ります」
ごくん。
莉子は生唾を飲み込んだ。
「曲は『トマト』です。聞いてください」
これが三人での最後のステージ。既に莉子の涙腺が緩む。
『赤』が見えない彼が、莉子の真っ赤な顔を想って書いた曲。
莉子には一つの決意があった。
このステージが終わったら、智に伝えたいことがある。
智がチラリと莉子を見る。
莉子が小さく頷くと、智はいつもと同じ呼吸で合図を送り、スッと息を吸った。
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