リコピン

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軽音部の部室は特別教室のある棟の端にあった。 「曹! 友達連れてきた!ベースの後継ぎ候補!」 智に掴まれたままの手首が熱い。莉子は『友達』と紹介されてまた赤くなった。 曹と呼ばれたガタイのいい男子学生が椅子に座ってスマホで動画を見ている。ツーブロックの上部がウルトラ(ホーン)のようなモヒカンの彼は莉子を見て疑わしそうな目を向けた。 「女子か。ベース重いけど大丈夫なのか?」 ぶっきらぼうな言い方に、莉子はムッと腹を立てた。 「やってみないと分かんないでしょ」 「やってくれるんだ!」 売り言葉に買い言葉、のはずが、隣の智が喜びの声を上げる。また両手を包まれ、顔をぐいっと近づけてこられた。 身体中の体温が5度ほど上がった気がして、莉子はそれに気づかれないように顔を大袈裟に逸らした。 「きょ、今日は聞くだけ!」 ようやく智の手を振り払い、もう掴まれないように莉子はギュッと固く腕組みした。 「オッケー、オッケー。今日は俺が即興演奏でもするよ」 智はそう言いながら肩のギターを下ろし、手際よく準備を始める。莉子は無意識に組んだ腕を緩め、彼が弦の音をチューナーで合わせる様子に見とれていた。 「そうだな〜」 智は弦を適当にコードを弾きながら何もない天井を仰ぎ見ていたが、「あ」と呟いて莉子を見てニシシ、と笑った。手にしていたエレキギターを立て掛け、代わりにそこにあったアコースティックギターを手に取る。 再び丁寧に音を合わせ、顔を上げた。 「歌います。曲名は『リコピン』」 「え?」
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