三年生。九月

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三年生。九月

「ほい、これ。学園祭の参加申込書」 三人組軽音バンド【ソラトモ☆リコピン】のリーダーである曹は、机の上にプリントを置いた。 三人は頭を寄せ合い、内容を見る。来月(じゅうがつ)頭の学園祭は、文化部の三年生のラストステージだ。 「これで、最後かぁ」 智がポツリとこぼした言葉に、莉子は苦い顔で拳を握った。 智は卒業後、シンガーソングライター兼ボーカルとしての道が決まっている。路上ライブでも人気が出てきた彼。ファンもいて、人垣ができることもあった。 ある日いつものように夕方の駅前で歌っていたところを、レコード会社の人間にスカウトされた。卒業式の次の日、東京に引っ越すことになっている。 「智の声、もう側で聞けなくなるのね」 莉子は泣きたくなる気持ちを抑えきれず、声が震えた。顔を上げた智と目が合った時…… 「莉〜子ぉ」 廊下側の窓が開き、浮かれた男子生徒が顔を出す。夏休みにしっかり日焼けした彼は莉子の新しい彼氏だ。 「茂木君……あたし達、部活始めたばっかり」 「終わるまで待ってるから」 窓の縁に肘をつき、デレて鼻の下を伸ばす彼氏。そこで莉子の悪癖が発動した。 「待たなくていい。先に帰って!」 「いや、大丈夫だし」 「待たれるとこっちが落ち着かないのよ!」 莉子は鬼のような顔で口を尖らせた。言い合う二人(カップル)を横目に智は彼らに背を向ける。 「コラ」 その表情を盗み見て、曹は智の後ろ頭をパコンと叩いた。
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