リコピン

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その後莉子はベースを持たされ、「CAFG」の四音だけ教わった。 「じゃあいくぞ」 曹がスティックで机のヘリを叩く。本物のドラムは一年生は使えなかった。 莉子は心臓が口から飛び出しそうになるほど緊張し、出来るだけ瞬きもせず、フレットを見つめていた。 ーーWhen the night, has come And the land is dark And the Moon is the only light we’ll see 智の声が音に乗る。 スタンドバイミー Cを二回 Aも二回 FとGは一回ずつ。 とにかくそれを繰り返す。 曲に合わせると、お腹の辺りにベースの低い音が響いた。 自分の弾いた音が誰かの音と重なって音楽になる。 その一体感は、莉子がずっと求めていたものだった。 震えていた指がしっかりと弦を押さえる。 空いていた心の穴が音で埋まっていった。 ※※※ 「また明日、他の音も覚えていこう」 「まだ入るって言ってない」 「覚えが早いから楽しみだな。なあ、曹」 「ああ」 頬を膨らませた莉子。彼女の胸の興奮を見透かしているのか、智は余裕で受け流す。 片手で莉子の頬を両側から押すと、莉子の唇の間から空気が否応なしに漏れた。 「顔、熱い。赤くなってる」 ニンマリ笑った智の口元。 腕を組んだ莉子は頬を潰されたまま、上目遣いに彼を睨み付けていた。
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