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そもそも、本とは一体何なのか。
エムデバの年齢でそれを説明できる者はほとんどいない。
本は彼らが生まれた今から15年前にはとっくに廃れていて、82になるマルチネですら、そのまた曽祖父が蔵に残した数十冊しか目にした事がなかったと言う。
本とは要するに情報記録用の媒体であり、〈紙〉という取り扱いの厄介な薄い膜に鉛や塗料を使って文字や絵が記されている。何枚もの紙がひと束にまとめられ、一辺が綴じられているものがスタンダードだ。
その昔、あらゆる学術的資料の全ては本の形であったと言うから恐ろしい。ひとつひとつにこれだけの重さと大きさがあったら、当時の人々はどれだけの荷物を持ち歩いていたのだろう、と、うんざりする。
自分の部屋に立ち寄ったエムデバは床に転がっていたスティック型の端末を拾い上げ、ストラップを首に掛けた。
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