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プロローグ おかめ先輩の預言
ある日、私はふと気付いてしまった。
ここのところ、まともに恋愛をしていないことに。
「ぱんちゃんはさー最後に恋したのっていつ?」
仕事の休憩時間、おかめ先輩にそう声をかけられて言葉に詰まった。ぱんちゃんというのは私のあだ名だ。小此木彩里が私の名前。【あやぱん】という名前の女子アナが昔いたらしく、それにあやかって【あやぱん】と呼ばれるようになり、現在は気付けば【ぱんちゃん】である。省略しすぎではなかろうか。原型どっかいっているし。
「最後ですかぁ?」
問われて考えた。つい最近、10年近く付き合った彼と音信不通になって別れたばかりだ。これがまた酷い。ちょっとライブに行ったりするのが楽しくなって、構うのが減ったせいなのか、連絡がつかなくなってお別れをした。そもそも相手からメールが来ないと電話も繋がらないような間柄だったのだから、10年近く付き合ったのは夢だったのかもしれないとも思う。
「……いつだろ」
高校の頃の相手ともうまくいかなかった。友人たちは次々に結婚を決め、気付けばおひとりさまを大満喫中。もうすぐ31歳。ぎりぎりアラサーというやつである。
やばいのではないだろうか。これは。
「あらら? 覚えてないってやつ?」
「あ、あはははー、そうみたいですねー」
「最近ぱんちゃん元気ないからさ。ちょっとかまかけたんだけど、そっかぁ。そうなのかぁ」
おかめ先輩は本当の名前は亀田福子だ。結婚前は太田福子でおたふく先輩だったらしい。ふくふくと丸いフォルムをしたぽっちゃり体型をからかうように付けられたそのあだ名を――
(縁起がいいわね。気に入ったわ)
の一言で自分のものにしたという器の広さを持っている。そして、人の表情に敏感。誰かが落ち込んでいるとかにすぐ気付く。おそるべし。
「ねぇねぇ、ぱんちゃん。今度の日曜日はお暇なの?」
「え、はい。ちょっと遠出してみよっかなーとは思ってましたけど。何でです?」
「西に行くといいわ」
にこにことおかめ先輩は笑っている。笑顔である。でも、有無を言わせない圧力を感じる。
「西に行くといいわよ。ぱんちゃん。きっといい出会いがあるでしょう」
「西」
「西よ。忘れないでね」
何だか知らないけれど、鳥肌がたった。この会社の一部の女子の間では有名なのである。おかめ先輩が預言をすると当たる。必ずそれは本当になる。
私はそれを目の当たりにして、胸がドキドキするのを感じた。
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