赤色

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 それからサークルで彼を見つけては話しかけた。それまであまり着てこなかった赤色の 服をよく着るようになった。彼は会うたびにそれを誉めてくれた。気がついたらクローゼットの半分を赤色が占めるようになっていた。  ある日サークルの仲間内で月食で赤い月が見れるということから夜に集まって宴会ついでに月見をすることとなった。彼もそのイベントに参加してくれることになっていた。一人暮らしにしては広い家に住む子に場所を提供してもらって宴会が幕を開けた。チューハイ缶の乾杯から始まり、鍋をつつく、ビールを開ける、おつまみを出す。横になり眠りにつく人、ボケとツッコミを繰り返している人、熱い話に身を投じはじめる人たちも出てきた。私はほんのりと酔っていて少しベランダに出ると告げて涼風を浴びに行った。  「綺麗な月~。あ~、そういえば今日、月食なんだった。もう皆、忘れちゃってるな。何のために集まったんだか。」  「本当にね。」  後ろから私の独り言に答える声がした。声の主は振り返らずとも分かった。彼は私の横について同じように月を眺めた。
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