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「王女殿下、ご注文されていた物をご用意いたしました。」
目の前の大きな白い扉は立派だ。しかし、それは本当は案外薄いのだと、私は知っている。
「えぇ、入って。」
扉の奥からの声を合図に、私は扉を開けた。
部屋の中は陽だまりの香りで満たされていて、まさにおとぎ話のお姫様のようである。
「それで、殿下。ご注文はこちらの品ですか?」
「ふふっ、その殿下っていうのいい加減くすぐったいわ。いつも通りの『リリィ』に戻してよ、エミ。」
さっきとは比べものにならないほど甘い声。
「わかったわよ、リリィ。それで、どう? これ。」
そういって私が差し出すのは、近年の印刷技術への魔法の応用が作り出した、『漫画』という書物。中でもその文化が独自に発展している東の国のものだ。
「あら、やっぱりこれの最新刊出てたのね。前回のあの引きだったから続きが読みたくて仕方がなかったのよ。この作品ほど主軸の二人が進展しないものもなかなかないけれど、そろそろ……って過去編じゃないの! ……あ、でも尊い……」
リリィが読んでいるのは東の国の漫画の中でも、女の子同士の恋愛を扱うもの……『百合』というらしい。なんだかリリィにピッタリ。いや、その『百合』を好きな人を『姫』というらしいから、そっちの方がピッタリかしら。
とにかく、彼女は百合が大好きで。
「リリィ、あなた自身は、女の子が好きなわけではないのよね。」
「当たり前じゃないの。もしそうだったら、エミだって嫌でしょう?」
私のことなんか見てくれない。
だからこの気持ちは、
「ええ、そうね。」
ずっとずっと秘めていよう。
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