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パラソル戦隊アンブレラー
「熱い炎で日本晴れ!パラソルレッド!」
「雨に紛れて敵を流す!パラソルブルー!」
「いつも心にポカポカ陽気!パラソルイエロー!」
「激しい雨も恵みの雨に!パラソルグリーン!」
「暗い夜でも守護範囲!パラソルブラック!」
超次元傘を持った戦士たちは今日も今日とて異世界から現れる怪人たちを相手に戦っていた。
「現れたか!アンブレラー!!毎回ご苦労なことだ。どうしてそう我々の前に立ちはだかる?!」
「傘の役目は雨や日光から人を守ること!!」
ブラックがそう言いながら傘をバッドのように扱い怪人の腹部を強打する。
「人の心に降る雨からだって皆を守るんだ!」
イエローが傘を開いた瞬間光が瞬き、怪人の目をチカチカさせる。
「つまり俺たちアンブレラーが異世界の怪人から人々を守るのは自然の摂理なんだ!」
そう言ってレッドが傘の先端を怪人に向け、そこから炎が噴き出す。そうして怪人は爆発し、消滅した。
「うん。今回はこれで大丈夫かな。」
グリーンが辺りを見回しながら言う。
「ひとまずは大丈夫だろ。」
レッドはそういうと傘のリボンをくるくる巻く。すると変身が解けた。
「おい!まだ怪人がいたりしたらどうするんだ。」
辺りを警戒していたブルーがレッドを叱る。
「いや、大丈夫そうだし。そもそも変身した姿じゃ公共交通機関とか使えないし。」
そんな言い争いをしていると本部から怪人の反応が完全に消えたという連絡が入った。
「ほら、大丈夫だろ。」
レッドがそう言って笑うのにブルーはため息をついた。
「異世界……パラレルワールドからやってくる怪人を倒す。それが俺たちアンブレラー……か。」
ブラックが基地の書庫で本を開きながらつぶやく。
「そうだな。超次元傘に選ばれた戦士だ。」
レッドが嬉しそうに答えた。書庫には今この二人しかいなかった。ブラックが相談があるのだと、リーダーであるレッドを呼び出したのだ。
「俺、実を言うと不安なんです。」
「不安?」
「黒なんて、5人の中でなんか一番悪役っぽいし、無彩色だ。同じ無彩色ならせめてホワイトが良かったのに!!」
苦しそうにブラックが言う。レッドはその肩にポンと手を置いた。
「そんなことないぞ?俺は黒もカッコいいと思う。それに」
ブラックの頬を両手で包み視線を合わせる。
「お前が何色だろうと俺たちは仲間だ。」
そういえばブラックは泣きそうに笑った。
「ありがとうございます。なんだかスッキリしました。」
「良かった。」
「リーダーも何か不安なことがあったら、いつでも相談してくださいね。」
ブラックはそう言って笑うと自分より頭一つ分小さいレッドの頭を撫でて行ってしまった。
「不安なこと……か。」
撫でられた頭を触りながらレッドは呟いた。
「何してるんだ。道の真ん中に突っ立ってると邪魔だ。」
いきなり後ろからそう言われてレッドは肩を跳ねさせた。
「いきなり話しかけるなよ?!びっくりするだろ!!」
「うるさい。俺は普通に仕事してるだけだから。」
ブルーは紙の束を運んでいた。
「それって今回の怪人の資料?」
「ああ。明日の会議の資料だ。」
「俺も運ぶよ。」
レッドがそう言ってブルーの手から紙の束を半分ほど貰おうとする。しかしブルーはそれを躱した。
「……。」
「……。」
何度やってもブルーはレッドの手を避ける。
「なんだよ?!持ってやろうって言ってるのに!!」
「余計なお世話なんだよ。俺よりちびのくせにレッドだからってリーダー面しやがって。」
「っ!!」
ブルーのキツイ物言いにレッドの目に涙が浮かぶ。ブルーは少し気まずそうな表情をした後
「俺は急いでるんだよ。」
と言ってさっさと行ってしまった。
(リーダー面か……。)
気にしていることを言われてレッドは俯いた。ブラックはああして自分をリーダーと呼んで慕ってくれているけどブルーは反対だ。全然自分を認めてくれない。
(やっぱり言えないな。)
そんなレッドには隠し事があった。ブルーもブラックもイエローもグリーンも男性なのに、実は自分だけが女性であるなんて誰にも言えなかったのだ。文字通りの紅一点であるがレッドは全然嬉しくなかった。
(生半可な覚悟でリーダーになったわけじゃない。)
赤い傘に選ばれ本部の人間にいきなりリーダーだと言われた。動揺したがそれでもレッドはそれを受け止めた。長かった髪も切って人々のために戦おうと心に決めたのだ。
ブルーはレッドが女性であることを知っていた。ブルーはレッドの役目がリーダーで、皆を率いるならば、ブルーの役目は参謀のようなものだと理解していた。だからこそレッドに色んな苦言を呈したりした。リーダーのレッドを導くのは自分であると思っていたからだ。
だからこそ、ブルーはレッドを良く見ていた。他のどのメンバーよりも長く、まっすぐレッドを見ていた。だからレッドの身長の低さや、腕の細さやらに気づいてしまった。自分より丸い肉付きに気が付いてしまった。疑問は観察を続けるうちに確信に変わってしまった。そうしたら急にレッドが危なっかしい存在に見えてしまった。元気にメンバーの前に立ち、怪人に一番に向かうその背中が酷く小さいものに見えてしまった。
それからは上手くいかなかった。気になるのに、守りたいのに言葉が出ない。警戒心が足りない姿も細い腕で他人の荷物を持とうとする姿も胸を締め付けてどうにもならなかった。
ある日、書庫に資料を取りに行ったらレッドがいた。レッドは台に乗ってその上でつま先立ちをして手を伸ばしている。上の方の棚にある資料が欲しいらしい。小さい体でよく無理をする。諦めることを知らないからたちが悪い。ちなみに必死らしくブルーには気が付いていないようだ。ブルーは内心ため息をつきながらも手助けしようかと思った。その次の瞬間だった。
「!!」
レッドがバランスを崩し足を踏み外す。考えるよりも前に体が動いた。
「―っ!!戦士なら、受け身ぐらいとれよな?!」
「へ?え?ブルー?え?」
レッドを抱き込む形で受け止めたブルーが眼光を鋭くする。しばらく目をぱちぱちさせていたレッドも状況を理解すると跳ね上がった。
「うわああ?!ごめん!!ありがとう!!大丈夫か?怪我無いか?」
レッドが大慌てでブルーに言う。
「大丈夫……。……レッドは?」
「は?」
「………………痛いところはないか聞いてます。」
「え?あ、ああ。な、無いです。」
レッドはそういうとブルーの上からどいた。ブルーはため息を一つつくと、レッドが取ろうとしていた資料をレッドに手渡して書庫から出て行った。
「…………ブルーもなんか資料が必要だったんじゃないのか?」
高いところから落ちそうになったからかレッドの心臓はバクバクいって中々落ち着かなかった。
おかしい。おかしい!あの、ブルーに受け止められたあの日から、どうにもブルーのことが頭から離れない。いや、仲間のことなんだから良いような気もするが……いや、やっぱりおかしい。だって、グリーンとかイエローに思う感じと違うのだ。受け止めてくれた時の大きい手だとか体の体温の高さとか、変なところばっかり思い出す。こんなの、仲間を思う気持ちとは違う。変に顔に熱が集まるのを感じて首を振る。そうして建物を出ようとした時雨が降り始めたことに気づいた。いつも通り変身デバイスでもある傘を普通の傘として使用しようとして目を丸くした。
「赤……くない?!」
なんとレッドの傘がピンクになってしまっていたのだ。傘を取り違えたのかとも思ったがこの波長は確かに自分を選んだ超次元傘である。どういう事なのかと混乱していると
「はーはっは!!お前らの心にも雨を降らしてやるぜ!!!」
目の前に怪人が現れた。
「くっ。」
例え傘の色がいつもと違っても正義の戦士としてやることに違いは無かった。
本部から怪人出現の知らせが入った。レッドはもうすでに近くにいて戦闘中らしい。
(なんであいつの近くに出るんだよ。)
ブルーは内心舌打ちをしていた。
「ブルー!」
イエローとグリーンが合流してくる。頷いてスピードを上げた。そうして怪人の元に辿り着く。
「な?!」
そこにいたのは怪人と赤ではなく桃色のスーツに身を包んだ戦士だった。
「え?ピン……ク?レッドじゃなくて?」
イエローが困惑している。
「色落ちでもしちゃったんでしょうか?」
不思議そうにグリーンも言う。いや、問題はピンクの戦士が結構ピンチなところだろう。レッドをずっと見ていたブルーにはピンクの中の人物がレッドだろうことはすぐに分かった。
「おい!何を苦戦している。いつものように傘の力を使え!!」
レッドの傘は炎を操る。なのにその力を使った形跡がない。
「使えないんだ!カラーチェンジの影響か何だかわからないけど!!」
ピンク色のレッドがそんなことを叫ぶ。そこに一瞬の隙が生じてしまった。
「ひぅ!!」
怪人がレッドを羽交い絞めにする。
「ははーん?違う色だから新人か亜種かと思ったが、いつものアンブレラーか。しかもリーダーのレッドか。力が出せないなら好都合!!いつも苦汁を飲ませられてるからな!!」
「くっ!離せ!!」
レッドがもがくが抜け出せない。
「レッド!!」
「ピ……レッド!!」
ピンクだけどレッドとはこれ如何に、という感じだがとりあえずイエローとグリーンが助けに向かう、が怪人の手下に阻まれてそこまでたどり着けない。
「リーダーを離せ!!」
全てを飲み込む闇のような傘を持って現れたのはブラックだ。
「リーダー!!」
「ブラック……!!」
「リーダーは言ってくれました!俺が何色だろうが、仲間だって!リーダーが何色でもリーダーはリーダーです!!」
その言葉にブルーも口を開く。
「そうだな。お前は仮にもアンブレラーのリーダーだ。色が変わったって、力が使えなくたって、変わらない。そうだろ。」
ブルーがまっすぐにレッドを見てそう言った。
(リーダー……。ブルーが……リーダーって!!)
「ああ。そうだ……。リーダーがこれじゃあいけないな!」
右手の傘を強く握る。レッドを選んだ傘。たとえ色が変わろうと、力が変わろうと、それはレッドの傘だった。
「ああああああ!!」
レッドは傘の柄を強く持ち、方向を変え、自分の後ろの怪人にめがけて強く突き立てた。その痛みで怪人がレッドの拘束をほどく。
「リーダー!」
ブラックがその腕を引いて怪人から距離を取らせた。
「くそ!まだだ!!お前らの心にも雨を!!」
呻く怪人の背後に、音もたてずに人影が現れる。
「いいや、終わりだ。」
雨に紛れて気配を消していたブルーが怪人に傘を突き立てる。怪人を包むように水球が現れる。その水球の中では様々な激流が渦巻いている。怪人はその流れにもまれ散り散りになって消滅した。
「これで……」
「一件落着かな?」
怪人の手下を倒し切ったグリーンとイエローも駆け寄ってくる。
「終わったか……。」
レッドはそう言って息をついた。
「ああ。でも終わったが終わってない。その恰好は何だ?お前いつの間にカラーチェンジなんて」
「ピンク可愛いよね?」
「女の子っぽいけどな?」
レッドにブルーが詰め寄る。グリーンとイエローが何かのほほんと会話しているが、ブルーは緊張感を持ったままだ。
「えっと、いや、俺にも分らなくてだな?」
「ブルー!リーダーも混乱してるんですよ?!そんな責めるみたいな言い方なくないですか?」
「ブラックは黙っていろ。大体その色じゃ、女ってことを隠す気が感じにく……。」
ここまで言ってブルーは自分の失言に気づいた。
「「「「え?」」」」
「え?!なになに?レッドって女の子だったの?すごく強いね!」
「強い女の子カッコいいな!!」
グリーンとイエローがワイワイそんなことを言う中、レッドの変身が解ける。その視線はブルーに向かっていた。
「気づいてたのか……?」
「……見てればわかる。」
ブルーはその反応を見てため息をついた。
「原因がわからないならしょうがない。本部の見解を聞きに行くぞ。」
そうして方向を変えたブルーが見たのは
「リ、リーダーが女の子?!」
顔を真っ赤にするブラックだった。
異世界からの怪人から人々を守るアンブレラー。リーダーのレッドが突然ピンクになったりするし、ブラックはこの反応だし、これから色々大変な予感がする……。ブルーは再びため息をついた。
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