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愛は、緊張の面持ちでアナウンサー室の前に立っている。
半年前に、ここアナウンサー室から、地方のローカルラジオ局に異動になった。
テレビ局の顔でなければならないアナウンサーが、よその局の専務と不倫をした事実は、決して許されなかったから。
愛はこの局に、ましてやアナウンサー室に戻って来れるなんて、夢にも思っていなかった。
以前の局長が定年退職を迎え、新しい局長が就任した。
それを機に、番組制作の在り方や専門職の強化、今廃れ始めたと言われているテレビ業界の底上げ、社員の教育、色々な事柄を掲げて新しい局長は刷新に力を入れていた。
アナウンサー室の現状は、人気が出てキャリアを積んだアナウンサーはフリーに転じるケースが多い。
実際、愛もその予定だった。
あんな事がなかったら…
結局、表には出ないアナウンサーとしてこの場所に引き戻された。
辞退する選択肢もあったのだが、負けず嫌いの性格がそうする事を嫌がった。
でも、このドアの向こうへ入る勇気が中々出て来ない。
すると、アナウンサー室の室長が、立ち尽くしている愛の肩を叩いた。
「愛さん、自信を持って前へ進まなきゃ…
一回の過ちで全てを棒に振るなんて悲し過ぎるよ。
君のキャリアが認められて、この部屋に呼ばれたんだ。
堂々と胸を張って入りなさい」
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