魔除け様

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冬休みに入り、束の間勉強から解放された司は自宅で炬燵にくるまっていた。スマホで萌奈たちと連絡を取ったり、動画を見たりして過ごしていると、 「司!またそんなゴロゴロして!少しは外に出たらどうなの。」 母親からクレームが入るが司は炬燵から離れる気はない。 「だって外寒いじゃん・・・。」 「友達と遊びに行けばいいでしょ。ショッピングモールとかカラオケとか。」 「そこに着くまでが寒い。」 母親は呆れたようにため息をついた。 「あんたがいると掃除ができないのよ。ほら、せめて炬燵から出て、部屋行きなさい!」 「えー・・・。」 ぐずぐず言いながら、司はなんとなく母親に従った。部屋へ行くとひんやりとした空気に出迎えられる。 (やっぱ寒いなー。) 司が暖房を点けようと近寄った瞬間ーーー。 「司ー、電話ー!」 廊下から母親の声が響いた。電話に出ると、萌奈からだ。 「司!今暇でしょ?遊び行かない?」 受話器に耳を当てると同時に萌奈の声が頭まで響く。司は呆れながらも了承した。寒いけど、萌奈と遊びに行くのなら構わないか。 (お母さんにも出掛けろって言われてるし。) 「それじゃあ、また後でね!」 電話を切って、支度をする。学校の鞄ではなく、出かける時用の鞄を手にしてなんとなくマヨケ様を付け直す。完全に信じているわけではない。それでも、あった方がいいはずだ。司は家を出て、待ち合わせ場所の喫茶店に向かう。 喫茶店では既に萌奈がチョコレートパフェを食べていた。 「美味しそうなの食べてるー。」 「いいでしょ~。」 司もメニューを開いて、イチゴパフェを注文する。待ってる間、萌奈の好きな人の話になった。 「どんな人なの?花たちには秘密にしとくからさ!教えて!」 「嘘だ~。司絶対、花たちに言うもん!」 「そんなことないって。」 「ありますー。」 イチゴパフェが届いても話題は変わらなかった。萌奈のチョコレートパフェと交換しながら、すっかり甘くなった頭で恋ばなが加速していく。時間配分あっという間に過ぎていった。 「もー、服見に行きたかったのに。パフェ食べて終わっちゃったじゃん。」 「ごめんごめん!また今度見に行こ?」 萌奈が拗ねるので、次に出かける日を決めて、二人は別れた。 (結局、萌奈の好きな人教えてもらえなかったなー。) そんなことを考えていると、何やら家の方が妙に明るいことに気がついた。 (なんだろ?火事?) 空の明るさに胸騒ぎがする。まさか、うちじゃないよね。そんな期待は裏切られる。司は足を早めて自宅へと急いだ。 「離れてください!」 「危ないですから、近づかないで!」 警察と消防士が野次馬を押さえていた。司は人だかりの間に身をねじ込む。一番前の列に着くと、そこから見えたのは今朝まで自分がいたはずの家だった。炎が煌々と、濃紺の空を染めている。あまりの光景に司は言葉を失った。 「救急車着きました!」 「怪我人を早く連れていって!」 怪我人がいる。司は周りを見渡した。母親がいない。血の気が引いた。タンカーが見える。司は飛び出した。 「お母さん!お母さん!!」 「ちょっと君!危ないから下がって!」 「この家の方ですか?」 警察二人に押さえられる。司がこの家の人間だと訴えると、パトカーで病院へ送ってもらうことになった。 「なんで救急車には乗せてもらえないんですか?」 司の質問に警察は少しの間口をつぐんだ。 「・・・その、君のお母さんは爆発したすぐ近くにいた様なんだ。」 「爆発って、どういうこと?お母さんは、生きてますよね?!」 「落ち着いて。ひとまず病院へ向かいましょう。」 答えをはぐらかされたまま、病院へ着くと既に手術室へ入った後だった。 「お母さん・・・。」 どうしようもないやる世なさに司は祈ることしかできない。そこへ、父親がやって来た。会社から慌てて来てたのか、息が上がっている。顔も真っ青だ。 「司、母さんは?」 「わかんない。どうしよう、お父さん・・・。」 彼女は今にも泣きそうな声で答えるのがやっとだった。父親もそれ以上は訪ねてこない。静かに司の隣へ腰かけた。胸を締め付ける沈黙が不意に終わりを告げる。 「笹山さん、ですね?すいません少しお話が・・・。」 父親が警察に呼び出された。再び一人になった司は足元を見つめてみる。鞄に付けていたマヨケ様が揺れた気がした。 「・・・マヨケ様、付け直さなきゃよかった・・・・。」 不安や恐怖は大きな罪悪感へと変わる。それが、異常な信仰心だと司にはわからない。母親に何かあったらどうしよう。司の頭はそれだけしかなかった。そこへ電話がかかってくる。相手は萌奈だった。 「・・・もしもし?」 「もしもし司?さっきニュース見たら、司の家の方で火事があったって流れてて!大丈夫?」 「・・・どうしよう、お母さんが、今手術してる。私、私がマヨケ様付け替えたから・・・!萌奈、どうしたらいい・・・?」 震える声につられて、目には涙が浮かぶ。口に出したことで、実感が迫ってきたのだ。怖い、怖い、苦しい。 「司?落ち着いて、何言ってるのかわからないよ・・・。」 「ごめん、でも、私のせいかもって、そう思ったら怖くて!怖い・・・怖いよぉ。」 「大丈夫だよ、きっと!お父さんは?いないの?」 「警察の人と話してる。お母さんにもしもの事があったら、私・・・!」 司の言葉を遮るように、萌奈は言った。 「・・・ごめん。今は話せそうないね。また明日かけ直すから・・・それまでに、元気出してね?」 お休みなさいと呟いて、電話は切れた。悪夢のような夜が司に絡み付く。
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