赤いスカーフ

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赤いスカーフ

マヨケ様の赤いスカーフに自分の名前と相手の名前を赤いペンで書く。そして、それをマヨケ様の首に巻いて、好きな相手に渡す。すると二人は必ず結ばれる。ネット上で密かに流れるマヨケ様の噂。ただし、名前の事が相手にバレると結ばれない。恋の(まじな)いにはリスクがつきもの・・・。 家が火事になって一週間経っても、司の心には暗雲が立ち込めたままだった。花や萌奈が、慰めようと声をかけるが空返事しか返せない。それでも、声をかけてくれる友人に司は感謝していた。 (いつか、二人にお礼しないとな。) マヨケ様は母親の病室に置いてある。これできっと大丈夫なはずだ。 「意識が戻るかどうかわからない。」 医者からはそう言われた。頭では理解できても、心が受け入れない。それが余計に司を苦しめた。自分の部屋がないので、公民館の誰もいない会議室に閉じ籠る。父親は会社へ行って、彼女の話し相手になる人間は近くにはいなかった。たまに花や萌奈が様子を見に来てくれるが、毎日というわけにはいかない。二人だってやることがあるだろう。司が天井を眺めて過ごしていると、ドアをノックされる。 「失礼しまーす。いたいたー、ハロー司!」 やけにテンションの高い花がやって来た。 「・・・どうしたの?テンション高いけど。」 低いトーンで司は訪ねる。花は興奮している様子で司へ近寄った。周りを見渡してから耳打ちする。 「実はさ、萌奈の好きな人わかるかも!」 「ほんとに?」 「ふっふっふー結構自信あるよ。」 中々言おうとしない花に司は、教えてよと言った。 「どうしようかな~。」 楽しそうな花を見ていると、司も少しだけ元気を取り戻せた。司は萌奈がいないところで聞き出すのも申し訳ないと思った。でも、好奇心を押さえられない。 「あのね、実は・・・・見つけちゃったんだ~。」 「何を?」 「これ見て!」 花がスマホを司の方へ差し出す。そこには、何やら怪しげなサイトが表示されていた。真っ黒な画面の中には白い文字でマヨケ様の秘密と書かれている。 「マヨケ様の、秘密?」 「これね、恋のおまじない何だって!」 「ふーん・・・。」 司はいまいち要領を得なかった。花は何が言いたいのだろうか。司がはっきり言うように迫ろうかとした、その時だった。ーーーコンコン!扉を叩く音に妨害された。 「おっと・・・・。」 花がヤバいという顔をする。会議室へ入ってきたのは萌奈だった。 「・・・・あー、私帰るね!この後用事ごあるんだ!」 じゃあねと足早に去った花と入れ替わりで、萌奈が司の隣へ腰かけた。 「花、何か言ってた?」 「な、何も・・・言ってないよ。」 萌奈の低い声に、司は嘘をついた。話さない方がいいのだろうと直感したのだ。 「ならいいんだけど・・・。」 そこからはいつもの萌奈の声だった。明るくハキハキとした声・・・。 「ねぇ、服見に行かない?前に約束したでしょ?」 「でも、私・・・。」 「服も燃えちゃったんでしょ?二日前も司、同じ服来てたもん!新しいの買えば、気分転換にもなると思うんだ。」 自分に気を使ってくれている萌奈を司は無下にできなかった。二人で駅前のデパートへと向かう。道中でなんでもないような会話をして、それから着てみたい服の話をして、たまに沈黙があって。 (久しぶりに、外に出た気がするなぁ。) 時間が過ぎるのは早い。服を二着買って、司は満足していた。萌奈も欲しいものを買えたのか、嬉しそうに笑っている。 「楽しかった!」 「そうだね・・・。でも買いすぎたかも?」 「司は倹約家だなぁ。そのぐらい平気だよ!」 二人で駅前の通りに出ると、水色から紺色へ綺麗なグラデーションの空が広がっていた。嫌なこと全てが夢だと訴えるような空。司は、笑顔にはなれなかった。 「ねえ、司は今、誰か大切な人はいる?」 いつかと似た質問に司は苦笑した。今、そんな心境になんてなれない。萌奈の顔が少し、歪む。 「・・・私は、司が大切だよ。早く元気になって欲しいと思ってる。」 「私も、萌奈や花のこと大切な友達だと思ってるよ。・・・ごめんね、心配かけちゃって。」 ーーー言葉は時として、無意識に他人を傷つける。認識の溝もまた然り。自分と司の間には溝がある。それは決して知られてはいけないこと。踏み込んではいけない領域・・・。 「司にとって、私は友達なんだ・・・。」 「うん、とってもいい友達。二人には感謝してるよ。いつかお礼しなきゃって・・・・。」 「そうじゃない、そうじゃないの!」 司の言葉は遮られた。 「萌奈?」 空に紺色が広がる。通りの電灯が付き始めた。 「友達に、なりたかったわけじゃない!違う!私は・・・・!」 最後まで口に出さずに、萌奈は走り去った。司は呆気にとられる。友達になりたかったわけじゃない、というのはどういうことなのだろうか。 (私、萌奈に嫌われちゃったのかな・・・?) 帰り道、いつもよりも孤独な気持ちで司は歩いていった。
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