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二人の答え
夕方になると、病院はいつもと違う姿を見せる。しんと静まり誰もいなくなったような冷たい空気が広がっていた。受け付けにも看護師が一人いるだけである。司の足音は静寂を踏みつけるように響いていた。灰色の廊下で母親の病室まで意味もなく早足になる。
(病院ってこんなに暗かったっけ?)
やっとたどり着くと、母親の姿にホッとする。ベッドの隣、柵の辺りに目をやった。ーーー無い。確かに置いて行ったはずのマヨケ様がなくなっている。驚く司の背後で誰かの靴音が遠ざかっていった。
「萌奈?」
司は足音を追いかけた。マヨケ様を取り返さなければ。あれがないと、母親はきっと目覚めない。
「お母さん・・・。」
病院を出て、辺りを見渡した。人影が見える。
「待って!萌奈!」
人影はふと、建物の中へ入っていった。司も追いかける。そこにいたのは、マヨケ様を握りしめた萌奈だった。
「・・・・。」
「萌奈、マヨケ様を返して。お母さんが目を覚ますかもしれないの。マヨケ様があれば、きっと!」
萌奈の目から輝きがなくなっている。憎しみさえ、帯びているように司には映った。
「やめてって、言ったのに。司にだけは、バレちゃいけなかったのに・・・・・。」
まるで呪いのように、萌奈が呟く。睨んだ瞳が司を捉えていた。
「私、司のこと本気で・・・だから・・・マヨケ様のおまじないを・・・。」
「おまじないがバレたら、私が萌奈を嫌いになるのって?バカじゃないの。」
「っ!?」
司が萌奈を睨み返した。互いに相手の心を探るように睨み合いが続く。
「そんなおまじないで、私が萌奈を嫌いになるわけないじゃない。」
「おまじないに頼らないで告白したとしても?素直に司と向き合ったら、私のこと受け入れてくれるの?」
「それは・・・。」
簡単には決められなかった。友達でいたいと思うことはきっと萌奈にとって拒絶を意味するのだろう。外では雨の音が聞こえ始めていた。
「気持ち悪いって、思ってるでしょ。友達のままでいた方がいいって。」
「気持ち悪いなんて、思わないよ。萌奈のこと嫌いにもならない。でも、すぐには答え、出せないの。」
「・・・今まで通りじゃないといけない?」
悲しみに満ちた声で萌奈は司を見つめる。思わず目を逸らしたくなった。あまりにも辛い。司は、萌奈へ近寄った。一つの決意が彼女を支配する。
「今まで通りじゃなくてもいい。萌奈のこと、もっと教えて欲しいの。答えはそれから出したい。」
差し出した手に、萌奈は戸惑いを見せる。
「・・・司は、ずるいなぁ。」
「ごめん。」
握り返した手はとても温かった。
「マヨケ様、返さないとね。」
「もう面会時間過ぎてるよ。明日、一緒に返しに行こ。」
少し強くなった雨の中を二人で歩いていく。しっかりと手を繋いで。
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