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1,思い出の傘
ぽつん、と頭に当たった。
私は急いでコンビニに駆け込み、服に着いた水滴を払った。
最近は天気予報が外れるときが多い。慌てて洗濯物をとりこんだのも記憶に新しい。
ザーと降る雨の音をぼんやり聞いていると、いつの間にか隣に人が立っていた。
この人も突然の雨で困っちゃったのかな。
そう思い、何気なく隣をみると、バッチリと目があってしまった。
「あ...」
「どうも。突然の雨、困っちゃいますよね。」
そう言ってその男性は苦笑した。
私は、その男性から目が離せなかった。
そして、男性は言った。
「いやぁ、よかった。雨の中探すのは嫌だったんですよ。でも、これで探す手間が省けた。」
信じられなかった。だって、彼は、もうこの国にはいないばすで。
私は信じられない思いのまま、彼の顔を見るしかなかった。視界がぼやけていく。今まで穴が空いていたところに、温かいものが満ちていく気がした。
「な、んで...だって、もう、海外に行ったはずじゃ...」
私が言うと、彼は目を細めて微笑んだ。
「迎えにきたんだ、君を。長い間、一人にしてすまなかった。」
目から大粒の涙がこぼれ落ちた。ポロポロととめどなく流れていく。自分では、止めることが出来なかった。
どれぐらいそうしていんだろう。ようやく涙が収まり、顔を上げるとあの頃と変わらない彼の姿があった。
私は彼の姿を見れたこと、彼が触れる距離にいることがただただ嬉しかった。
「おかえりなさい。ずっと、ずっと会いたかった」
そう言って彼に抱きつくと、彼の持っていた傘がカタン、と音を立てて倒れた。その傘は、私が彼に贈った思い出の傘だった。
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