32人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
朱色の壁紙に、朱色のカーペット。
落ち着く色合いであるがどこか重厚感を感じさせる部屋には、艶があるこげ茶色の木製のデスクとそれとセットでデザインさせている椅子があった。
部屋の壁半分はぎっちりと本が並んだ本棚で埋めつくされていた。
机の上にも床にも書類の山がおかれているが、それ以外にも趣味で集められたであろう、魔法道具の骨董品が隙間に所狭しとおかれていた。
それほど広くない部屋だが天井は高く、天窓には日差しが差し込みことでランプを灯さなくとも、部屋の中は十分に明るかった。
むしろ日を浴びた骨董品たちがキラキラと輝き、この部屋にいることで生き生きとしているように見えた。
先程道に迷っていた少年・小焔は校長室のデスクの前で背筋良く立っていた。
そしてデスクを挟んで椅子に座っているのは、カストリア魔法学校校長であるカストル校長である。
「よく来てくれた。長旅で疲れただろう。」
「お気遣い、ありがとうございます。」
老人のような見た目に白髪と白い髭が、クリスマスの夜によく見るような老人を想像させる。
校長は立ち上がり、長いローブを引きずりながらデスクをまわって彼に握手を求め、彼もスマートにそれに答える。
「さすがこちらの言語は堪能であるな。留学生として推薦されるだけあって優秀である。君の故郷では漢字とういものが言語なのだろう? 李・小焔くん。」
そう言われた彼は、握手を交わしながら、笑顔で返した。
「いえ、家業の関係で幼い頃から様々な国をまわってたので、自然と身についたものです。」
校長は満足そうにうなずくと、ゆっくりと椅子に座った。
「あの鬼騎魔法学校の生徒ある君が我が校に留学にきたことは、喜ばしいことである。これを機に君の学校とも交友を深め、良き関係になれるきっかけになればと思うておる。」
「精一杯、頑張ります。」
小焔は一礼した。
そして一通りの挨拶が終わったと判断した小焔は、自ら話題を切り出した。
「あの、さっそくなんですが……」
「まずは、次の授業でクラスメイトに挨拶せねばな。」
「は?」
しかし自分の言葉を遮って言われたことは、小焔にとって思いがけないことだった。
「あの、この留学の目的をお伝えしているはずです。俺……私に、授業にでるという猶予は……。」
「もちろん、君のことは承知しておる。そして一部の先生方にも協力をお願いしておる。君の望みを、こちらはできる限り力になりたいと思っておる。」
「でしたら、」
「しかし、君の要求だけで我が校が留学を受け入れたわけではない。あくまでも、我が校カストリア魔法学校と鬼騎魔法学校の交友とお互いの発展のため、さらに文化も魔法性質も違う君と我が校生徒が関わることで、勉学的にも精神的にもお互いの成長を目的とするためである。それぞれの学校が関わっている以上、本来留学とはそういうものではないかね?」
「ですが……。」
剣のように綺麗な正論に、小焔は何も言葉がでなかった。
校長の言葉を理解はした。
それでも自分の要求が外れたことに、小焔はむすっとした表情を浮かべる。
「ほう、本来はそれが君の姿か。」
「え?」
一瞬のふてくされた小焔の表情を校長は見逃さず、笑った。
校長はどこか子供のような少し意地の悪い顔だった。
「君は言葉遣いも良く、礼儀正しく私に挨拶をしてくれた。素晴らしい姿勢であるが、ここからはそんなに緊張しなくてもよい。君はまだ15歳じゃ。年相応の君でかまわんよ。今みたいな本来の君で友達を作り、勉学に励み、時には恋人だって作ればよい。せっかくの機会である。存分に楽しみたまえ。」
今回の留学にはある目的があり、同世代の生徒とは関わりをもつ気がなかった小焔には、校長の言葉にすべて見透かされた気分になり、ただただ返す言葉がなかった。
校長はさらににっこりと微笑み、立ち上がって、両腕を大きく広げた。
「ようこそカストリア魔法学校へ。我が校は君を歓迎する。どうか素晴らしい学校生活を送ってくれたまえ。李・小焔くん。」
最初のコメントを投稿しよう!