魔法学校始業式

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魔法学校始業式

この世界では魔法が存在する。 ホーライ大陸では古来から戦争と和睦し、国々が統一と分断を繰り返していた。 今では大きく分けて4つの魔法の国がホーライ大陸に存在している。 今から13年前、この国々で歴史上最大の戦争が幕を閉じた。 ある1つの国に対し、他の国が協力し争った戦争は、誰もがすぐに決着がつくと思われていた予想にも反して2年もの歳月を有した。 終戦後、戦争に関わった国々はお互い手を取り合い、同盟を組み、ホーライ大陸の平和の象徴するフォルフォティ大聖堂を創設する。 さらに、それぞれの国には国民を守り、他国との政治を執り行う機関と、良質な魔法使いの育成のための学校を作った。 王国・タンザゴルビは何よりも力を重んじるガランナット魔法学校を設立。 魔法スポーツ界にて活躍する多くの選手を輩出した。 ハニエル王国は品性を大切にし、気品あふれた紳士淑女の育成をモットーとするオエナンサ魔法学校を設立。 有名魔法一家の子女が多く、また卒業生のほとんどが家督を受け継ぐか、教会や大聖堂に従事し人生を捧げる。 戦争では唯一敵国であった旭陽(シィーヤン)国は、終戦を機に新たな帝・天照(アマテラス)を即位。 平和を重んじ、各国との友好的に関わろうとするが、未だ戦前の戦闘魔法が強く残っているためか、鬼騎(グイチー)魔法学校では独特な魔法教育を行っている。 残るアストイア国は、争いを好まず、平和な国である。 そんな国の思想の影響を大きく受け、設立されたカストリア魔法学校では最も生徒数を有し、出生を問わず、自由に魔法を学べる学校である。 カストリア魔法学校には4つの教訓を掲げている。 勇敢で友を守れる者。 聡明で探求心を持つ者。 博愛で隣人と手をとりあえる者。 己に厳格で倫理に従順となれる者。 未来ある生徒たちに清い魔法を教え、自らの力で道を切り開く術を教えていく。 そのカストリア魔法学校で、今日、春休みが終え、新学期が始まった。 始業式のため多くの生徒たちが大広間に向かう。 その流れに逆らって、逆行している生徒が一人いた。 「ルネッタ! 始業式でないの?」 「ごめん、ニーナ! どうしてもあの子が心配なの! 授業の出席までは戻るから!」 そう言って、肩まである栗毛の髪をなびかせ、少女は人混みをかき分けていった。 *** カストリア魔法学校校門に、一人の男子生徒が立っていた。 真新しい制服を身につけ、全寮制のこの学校に大きなトランクをもつその生徒は、今日からこの学校の生徒になることを物語っていた。 さらに春風にふわふわと揺れる黒い髪と、夜のような黒い瞳は、アストイア国では異質な見た目をしている。 彼は大きな荷物を引きずりながら、学校内のレンガ道を歩いていたが、学校の広さに道に迷ってしまっていた。 まずは校長室に行かなければ、自分のクラスも、寮の場所もわからない。 しかし始業式を行っている今は、辺りには生徒や教師も見当たらなかった。 「まいったな……。」 彼が頭を掻きながらそうぼやくと、強い風が吹いた。 風に乗って花弁が舞い、長い前髪が彼の視界を妨げる。 花弁と一緒に風にのって少女の声が聞こえた。 彼は助け船と思い、声のする方へ駆け出した。 声の主である少女は、校舎の裏にある、柵の中にいる動物をなでながら、優しく声をかけていた。 1メートルくらいの体格があるその動物は黒い羽毛に覆われ、体はふっくらと大きく、オレンジの大きなくちばしと2本の大きな足で体をささえて立っている。 鳥には見えるその動物は、ギョロリと向いた目が彼には少し不気味に見えた。 少女はその動物のくちばしをなで、笑いながら話しかけている。 動物もまた、少女に顔を摺り寄せていた。 「よかった、怪我治ったのね。心配できちゃったわ。」 制服であるブラウンのワンピースを着ていることから、彼はすぐに少女が生徒であることがわかった。 風で舞う花弁が一人と一羽の楽しそうな雰囲気をより一層引き立て、彼らの触れ合いに水を差すようで少し気が引けたが、彼は少女に声をかけた。 「あの……。」 「えっ!?」 少女は朱色の瞳を大きくあけ、驚いた顔をする。 彼はそこまで驚かすつもりではなかったが、始業式を抜けてきた少女には、誰もここには来ないと思っていたのだ。 「わ、悪い……そんなに驚くとは思わなくて。」 「い、いえ……ごめんなさい。」 先程の動物に向ける楽しそうな表情とは打って変わって、少女はおどおどと怯えたような表情をした。 「道を教えてくれないか。今日からここに通うことになって、校長先生に挨拶に行きたいんだ。」 「は、はい……。ええと、ここの道をまっすぐ行って、右に曲がると、い、一番大きな建物がありますから……そこの一番上が校長室です。」 少女が道を説明していると、少女の腰についたポシェットから一匹の白い動物が現れて、背中からよじ登るように少女の肩に乗った。 手のひらサイズのその動物もまた、猿のようなリスのような、彼には判断ができない動物だった。 大きなくりくりとした目が、彼をじっと見つめている。 「あの……?」 「あ、ああ、助かった。」 彼は姿勢をただし、一礼する。 彼はその動物のことを気になったが、少女に聞くことはせず、少女から聞いた道を辿り、校長室へ走った。 彼の姿が消えるまで見届けてから、少女は深いため息をする。 「私、ちゃんと話せてたと思う? クリスピー。」 クリスピーと呼ばれたその動物は、ルネッタの肩の上でこてんと頭を傾けた。 傾けた頭は180度以上首が横にぐるんと回り、すぐに首がもとの位置に戻った。 「オリーブとニーナ以外の人とも話せるようにならなきゃって、思ってるんだけどな……。」 先程の会話がうまくできなかったと自己嫌悪に陥る少女の頬に、クリスピーは体をすりつけた。 励まされているとわかった少女は、クリスピーに「ありがとう。」と小さく呟いた。 人よりも動物を愛する少女、ルネッタ・リンフォード。 黒い髪と瞳を持つ留学生、()小焔(シャオエン)。 これが二人の運命的な出会いだった。
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