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痣の他にも、アキは左目を気にしている。
「うーん……。やっぱり見えにくくなったような気がすんだよなー……」
「そう? 眼科行ってみた?」
「まだ」
「行けよ。ちゃんと検査してもらえ」
そうして検査した結果、やはり左目の視力が少し落ちているらしい。外傷と言えるほどの外傷はないため一時的なものかもしれず、断定はできない。どうしてもというなら眼鏡をかけてもいいがと医者は言ったそうだ。
アキは嫌そうな顔をする。
「眼鏡かー……。俺、似合わないんじゃないかな」
「そんなことないだろ。アキ、何でも似合うって」
「惚れた欲目ってやつ?」
「……なんかお前この頃言うことが遠慮ねーな……」
まあせっかくだから眼鏡をかけたらどうなるのか検証してみようということになり、アキと陸人は一緒に眼鏡屋などに来ている。
「なんかいろいろあんだな」
両目とも視力1.5で眼鏡に縁のない陸人は、あちらこちら見回して感心している。
「セルがいいかな。メタルがいいかな。陸人、どっちがいいと思う」
「細い方がいいんじゃない? アキ顔小さいし」
「そう? じゃあこの辺か」
シルバーのメタルフレームの眼鏡を掛けたアキは、なかなか様になっていた。元々の造りがいいと得だなと陸人は思ったのだが、アキは気に食わないようである。
「うーん……。これ、似合ってんだか似合ってないんだかよくわかんねえ」
「似合うよ? 恰好いいって」
「そうかー?」
それから、試着を数種類。
茶色いセルフレームの眼鏡は、アキにとってはほとんどギャグだったらしい。
「これはない。これはないわ、お前誰だよって感じ」
「そこまでひどくないって」
店にとっては邪魔な客だっただろう。他に客はほとんどいないにも関わらず、誰もふたりには近寄ってこなかった。制服の高校生ふたりだし、買いに来たのではないと判断されたに違いない。間違ってはいない。
何でもない日常が、戻ってくる。
「なあ、アキ、これ答えどれ?」
英語の問題集を解きながら、陸人はアキを突いた。
教科によって多少のばらつきはあるものの、基本的な成績としてはアキの方が上である。
「訊いてどうすんだよ。自分でやれよ。onだよ」
「え、そうなの? on? inじゃなくて?」
「こうやって外側にくっついてる状態がonなんだってよ」
アキが陸人の肩から腕まで撫でた。アキにとっては何の気なしの仕草だったのだろうが、陸人の方が反応してしまう。
アキが、陸人を見下ろした。
「……お前ね」
「アキが触るからだろ! それに、別に、勃たせんなって賭けじゃないじゃん!」
情けない言い訳だった。
「そりゃそうだけど、お前、腕触っただけでそんなんなるか普通」
「うるっせえなああ、我慢するよ。約束したんだから、ちゃんと守る」
「うっわー、真面目」
アキは笑い転げた。
楽しそうなアキを見ていると、陸人は安心する。顔の傷が癒えてくるに従って、心に負った痛みも和らいできたのだろうと。
「……アキ」
「ん? なに?」
「来週の月曜にはひぃひぃ言わせてやるから覚悟しとけよ」
「うっせばーか、気持ち悪ぃんだよ」
「ひでえ!」
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