元の通りに

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元の通りに

 翌朝、陸人の目の下には見事な隈が残っていた。  バスの中では終始船を漕いでいた。こっくりこっくり、がくんと頭が落ちてしまってうとうとしていたら、肩を叩かれて目を覚ました。 「久我山君、バス停着いたよ」  親切なクラスメイトであった。優愛の友達だ。 「あー、ありがと……」  眠い目を擦りつつバスを降りて、のろのろ歩いて、校舎に入る。下足箱でちらりと見てしまった。  きちんと並んだ黒い靴。アキは、もう来ている。  教室に入ると、窓際の席にアキがいた。どうしようかと迷ったげ挙句、陸人は努めて平静を装い、アキの隣を通る。 「おはよ、アキ」 「んー」  アキも眠そうに応えた。その後で欠伸までして、凝っているかのように首を撫でた。  その瞬間、陸人ははっと息を呑む。  制服のワイシャツがいくらか下りて、アキの首筋が露わになった。その滑らかな肌に覗いた、紅い痕。  痣のように見えた。しかし痣ではないことは、本能でわかった。  ほんの瞬きの間に隠れてしまったから、見えたことにアキも気がついていないのだろう。何か言ってしまいそうな自分を必死で抑えて、陸人は顔を背けて自分の席に座った。  キスマーク。所有の証。  怯んでどうする。  陸人は唇を噛んだ。アキは友達だ。他の誰かと寝ている証拠を見せつけられたからといって、そんなもの気にするようなことでもない。  しかし脳裏には、あの男とアキが絡み合っている絵が浮かんできた。  アキはどちらでしたのだろうと、これもまた考えてはいけないことを考えてしまう。  ――さーあ、どっちでしょう。  頭の中で、アキが言った。  あの男は、自分たちよりも背が高かった。逞しそうだったから、アキを押さえつけることもできるだろう。  と、いうことは、おそらく……。  陸人は机に額を落とした。これから授業が始まるというのに、心臓がうるさく跳ねる。  教師の言葉は、全く耳に入らなかった。
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