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今日の約束
12月の冷たい風が吹き抜け、乾燥した頬の表面がぴりぴりと突っ張る。私は思わずコートのポケットに手を突っ込み、肩をすくめるように身を縮ませた。
待ち合わせ場所として指定された、大きなからくり時計の下に立ち続けて、かれこれもう30分は経つ。
頭上には、大型映画館が3つも入館しているビルがそびえ立っている。
ここで映画を見るのが、今日の約束。
私は東京の地理には詳しくない。
ここに辿り着くまでに道に迷わないかと少し不安だった。だけど結局、待ち合わせの時間よりも随分早く到着してしまい、こうして寒空の下で暇を持て余すことになった。
からくり時計が音を立てて動き出す。
針はちょうど3時を指していた。
オルゴール調の音楽が流れ、時計の中から出てきた人形が楽器を演奏し始めると、周囲の人々は皆揃って足を止め時計を見上げた。
その観客の一人になって、ぼんやりと口を半開きにしながら顔を上に向けていると、聞き慣れたよく通る声が私の名前を呼んだ。
思わず背筋をぴんと伸ばして振り返る。
雑踏をかき分けながら駆け寄ってくる、舞子の姿が見えた。
「ごめん、待たせた? ……久しぶり」
「うん。……しばらく」
私が微笑むと、風に吹かれて少し乱れた髪の毛を撫でつけながら、舞子も笑った。
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