24人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
今日の約束は、私からの誘いだった。
だけど本当のところ、私は映画になんてちっとも興味がない。
舞子と私は、「特に用は無いけど、ちょっと会おうよ」と言い合えるほどの関係では無かったというだけ。
舞子に会う為には、いちいち『会う為の理由』が必要だったから、散々悩んだ挙げ句に映画に誘うことにしたという、ただそれだけだった。
遠い他県からわざわざ高速バスに乗って東京まで出て来ておいて、「ちょっくら見たい映画があるんだけど、一緒にどう?」なんて、露骨に言い訳じみているとは思った。
でも舞子は特に何も言わずに、あっさりと誘いを受け入れてくれた。
内心ホッとしたけれど、それは舞子が私に対して何の感情も持たないということの証明にも感じた。
舞子と私は1年前まで、同じ高校に通うクラスメートだった。
仲は良かった。だけどいつも一緒にいたわけじゃない。
クラスの女子は、だいたいの子がいくつかのグループに分かれて学校生活を送っていた。そんな中で、舞子はどこのグループにも属さない『浮遊霊』的な存在だった。
クラス内で浮いていたということではない。むしろ、誰とでもそれなりにうまく付き合うことは出来るのに、群れるのを嫌って、基本的には個人行動ばかりしている――それが『浮遊霊』であり、舞子だった。
凛として他人にもたれかかろうとしない舞子に、私はいつも遠くから親しみを感じていた。
最初のコメントを投稿しよう!