24人が本棚に入れています
本棚に追加
高校を卒業して、私は地元の専門学校に、舞子は東京の大学へと進学した。
胸ポケットに薔薇の花を差して、卒業証書を持った舞子を見た時、私は「これきり舞子と離れてしまうのは嫌だ」と強く思った。
しかしよく考えてみれば、学校という枠以外に、私と舞子を結びつけるものは無いに等しかった。
歳が同じというだけで、特に共通の話題があるわけでもない。私は舞子がどんな家で生まれ、どんな風に育ったのかすら、いまだによく知らずにいる。
それでもただ一度きりの学友の関係で終わってしまうのが無性に悲しくて、私は今でも時々、こうして舞子を呼び出しては、無意味で穏やかな時間を共に過ごしているのだ。
「映画といえばさあ――」
劇場へと向かうエレベーターの中で、点滅する数字を見上げていると、隣で舞子がポツリと呟いた。
顔を向けると、蛍光灯に照らされている舞子の横顔が青白く、どことなく不健康そうに映った。
「あたし、大学に入ってから同じサークルの男の子に告白されて、一緒に映画を見に行ったんだ」
「えっ! あ、ああ……そうなんだ」
「でもあたし、映画見ながら寝ちゃったんだよね。で、後日あっさりフラレた」
「えー、マジで?」
「マジだよ。信じらんないよ。あっちから告ってきたのに、あっという間にフッてくるなんて。台風みたいな奴だったよ」
最初のコメントを投稿しよう!