12人が本棚に入れています
本棚に追加
男は照れたようにふっと笑って、オレの頭をポンポンと優しく叩いた。
「とりあえず、なんか食えよ。いきなりガツガツ食ったら腹痛くなるから、少しずつな。風呂はその後だ」
そう言って男はキッチンへと向かっていった。
──なあ、オレ、生きてていいのか?
思わず心のなかでそう男に問いかけると、偶然なんだろう、男は立ち止まって、振り向いた。
「側にいてくれるだけでいい」
胸の奥がツンと熱くなった。
オレは目を細めて男をじっと見つめながら、無意識に尻尾をピンと上げてしまった。
「あとでカリカリメシと、猫じゃらしくらいは買ってくるからな」
そんなの、いい。
どうか今日は、ゆっくり甘えさせてほしい。
こぼれそうになった涙をごまかそうと、ふと顔を横に向けたら、目線の先に鏡が立て掛けてあった。
その鏡には、赤い首輪をしたみすぼらしい黒猫が、誇らしげに座っているのが映っていた。
[おわり]
最初のコメントを投稿しよう!