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「これさ、オレが子どもの頃から、17年連れ添ったヤツの形見なんだ。絶対、二度と、誰にも使わねえって決めてたんだけど、おまえに似合いそうだから」
男の手が項に回され、喉もとで優しく留め金がかけられた。
灰色の世界に、真っ黒なオレ。オレの首を飾ったのは、細い、真っ赤な首輪。
「……うん、黒に赤、やっぱすげえ似合う」
男の顔がほころんだ。
その時。
まるで、静かな湖面に小さな雫が一滴落ちたかのように、あらゆる色が男の胸のあたりから溢れ出し、ぱああと世界に広がった。
絨毯も、カーテンも、壁も、毛布も、窓も、窓から見える空も、すべてがいきいきと発色した。灰色だった世界は、光り輝きはじめた。
目の前の男も、もう灰色じゃない。なんて優しい目をしてたんだろう。
「こんな美人を捨てるなんてな。後悔したって、もう返してやらねえ」
オレの頬に手を添えて、顔を擦り寄せてきた。
……いいのか、オレで?
オレは「おまえなんかもういらない」って捨てられたんだぞ。オレには存在する価値なんかないんだぞ。
「基本、自由にしてくれてかまわないから。でも、必ずここに帰ってくるって、それだけ約束して」
オレ……
オレは……
「大切にする。その赤い首輪が誓いの印だ。ずっと側にいてくれ」
なん……だ、それ……。まるでプロポーズじゃねぇか。まあ、オレは男だけどな。
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