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光り輝く
灰色の分厚い雲からぽたぽたと雨粒が落ちてくる、そんな憂鬱な天気だったから──だと思う。突然、世界から色が消えた。
チカチカと点滅する信号も、屋根の色も、アジサイの花や葉っぱ、行き交う車、人々の服や靴、そうしたものすべてがぼんやりとした灰色になった。
異世界に迷い込んだのかと焦った。けど、灰色の人間は誰も戸惑った様子がないし、灰色の路地も公園も街並みも、見慣れたものばかりだ。いつもの世界から色が消えた、ただそれだけの事のようだった。
色が消えただけなのに、ものすごく気分が滅入った……いや、原因はそれだけじゃない。この鬱々とした気持ちには他に理由がある。
解ってる。でもまだそれを認めたくない。認める勇気がない。
世界が灰色になった日、雨が降っていた。汗をかくほど暑い日もあったというのに、色と一緒に気温まで奪われたのか、肌寒い日が続いた。
雨、曇り、雨、雨、雨……。
青空も太陽もない世界なんて、まるで牢獄だ。
さびれた神社の軒下で雨露をしのいでいたけど、さすがにもう丸三日なにも食べていないせいで、起き上がるのさえ億劫になってきた。一度、灰色の女が、灰色の小さな菓子パンをオレに差し出してくれた。
知らないヤツから食い物を恵んでもらうくらいなら餓えたほうがマシだと思った。この時はまだ、オレにもプライドが残ってたんだ。
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