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「どこが痛いって?」
近寄ってきた中津川を、有無を言わさず引き寄せて、自身のあぐらをかいた膝の上に乗せる。
そうして、迫田は訊いた。
「ココ」
中津川は、ぎゅっと胸を押さえる。
「あと、なんか鼻水出てきたッス…鼻も痛ぇッス」
「そうだろうな、泣いてるからな」
「え!俺、泣くほど痛かったんスか?それ、マジでヤバい病気ッスかね…」
泣いていることに気づいていなかったのか、ゴシゴシと腕で目を擦って、彼はびっくりしたように言う。
迫田は、顔を少し歪めた。
「そうだな、相当重症でヤバいな」
「俺、しっ、死んじゃうッスか?」
「死にはしない。俺が治してやるから安心しろ」
更に顔を歪めた迫田は、オロオロする中津川の胸をそっと撫でる。
優しく、何度も。
「…どうだ、痛くなくなっただろ?」
中津川は、目をパチクリさせた。
「ホントだ!痛くなくなったッス!すげぇ、迫田サン、医者みてぇッス!」
「そうか、よかったな」
お前は馬鹿だから、これからも時々そういう原因不明の痛みが起こるかもしれん。
そういうときは、俺のところにきて言え。
治してやるから、いいな?
迫田に畳みかけるようにそう言われて、中津川はコクリと頷いた。
「でも、なんか、痛くはなくなったけど、すげぇモヤモヤするッス…なんでッスかね?」
「痛みの後遺症だ、しばらくこうしてれば治る」
迫田にきっぱり言われ、中津川は首を捻りながらもおとなしくされるがままになっている。
「ハル、お前は馬鹿だが素直なところが可愛い」
あんな程度でヤキモチを妬くということは、お前もそれなりに俺を好いてくれているんだな?
そう口の中で呟く迫田の顔は、完全に歪みきっていた。
二人の様子を唖然として見ていた崇史は、高原を振り仰いだ。
「あの二人って……」
「そーゆーことらしいな。どうやら、俺たちはお邪魔だったようだ。稽古はまたにするか、行こう」
これ以上邪魔しないように、二人はそっと道場を後にする。
「なあ、エータもちょっとは妬いた?」
「どうだろうな?知りたければ、身体で確かめてみるか?」
ニヤニヤ笑って高原が言うと。
崇史は、顔を真っ赤にしてキャンキャン喚き出した。
「は?意味わかんねぇし!なんで身体だよ、このエロヤクザっ」
「そう吠えるな、さっきの手合わせぐらいじゃ遊び足りなかったんだろう?ちゃんと足りない分の運動をしっかりさせてやるから安心しろ」
「マジでイミフだから!そんな安心いらねぇし!」
あっかんべー、と舌を出して、逃げるように走り出した彼の子犬を、高原は余裕の足取りで追いかける。
いつまでたっても、子犬は子犬だ。
やんちゃで元気がよくて可愛すぎる。
しかし、飼い主にあかんべするとはいい度胸だ。
それ相応のお仕置きをして欲しいということか?
それなら、期待に応えなくてはな。
高原は口許に笑みを浮かべたまま、さっさと隠れてしまった彼の子犬の気配を探った。
すぐ見つかるのがわかっているのに、懲りもせず。
これもプレイの一環なのか?と、都合のいい解釈をして。
fin.
2019.06.15
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