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おまけ
「せっかくこっちに戻ってきてるんだ、少し鍛え直しておくか?」
中津川が迫田の筋肉をあまりにも羨ましがるので、彼はそう言って恋人を道場に誘った。
昨晩、散々イかされまくってかなり消耗したはずなのに、中津川は翌朝にはケロリとしていた。
若いからなのか、いろんな意味でおバカだからなのか。
まあ、尻を使わなかった分、身体への負担は少なかったのかもしれないが。
というわけで、宇賀神邸の屋敷内に建てられている道場で、健全デートだ。
迫田的には、護衛という大役を任されていながら、どこもかしこも隙だらけに見える中津川を、ひょいひょい転がして寝技に持ち込んで触りまくるという楽しいひとときを過ごせて、かなり満足していた。
その厳つい強面に、楽しそう、と表現されるような表情は決して浮かばなかったけれども。
「迫田サンには全然勝てねぇッス…あー、俺、こんなんでちゃんと護衛務まってるッスかね」
一旦休憩、と水分補給をしながらぼやく中津川の頭を、迫田はポンポンと撫でた。
「お前はよくやっている、大丈夫だ」
「そっスかぁ?」
そのとき、道場の入口でガタンと音がした。
中津川と迫田は顔を上げる。
「ああ、使ってたのか、迫田」
入ってきたのは、若頭補佐の高原だ。
会長が半ば隠居状態の今、実質的なトップは若頭の宇賀神龍之介で、その右腕である高原は事実上のナンバーツーだ。
しかも、見た目はそれほどゴツくもない、一見どこにでもいるサラリーマンのように見えるこの男、現在の会の中では、若頭を別格とすれば最も強い男なのだ。
ゴリゴリマッチョの迫田よりも強い。
中津川は、自分を拾ってくれた崇拝する男が現れたことで、ぱあっと顔を輝かせた。
「高原サン!」
「お前もいたのか、ハル。迫田に稽古つけて貰っていたのか?」
「ハイ!」
さながら犬ならば尻尾を千切れんばかりに振り回していることだろうその様子を、迫田は背後からじーっと見つめている。
中津川が高原に、拾って貰った恩義を感じているのも、過剰なまでに憧れているのも、もちろん知っている。
だけど。
と、高原の背後から、小柄な青年がひょこりと顔を覗かせた。
子犬みたいな童顔の、愛嬌のある可愛らしい青年だ。
極道の関係者にはとても見えない。
が、その顔、どこかで見たことのあるような気がする。
それも、すごく身近で。
それはそうだろう、二人は知らなかったけれども、彼らが護衛についている「坊っちゃん」の恋人が、この青年の甥っ子なのだ。
この叔父と甥は、顔立ちがとてもよく似ている。
「エータ、誰か使ってんなら、今日は別に稽古じゃなくてもいーけど」
その青年は、宇賀神会の実質的ナンバーツーを名前で呼び捨てた上にタメ口をきくという荒業をやってのけた。
しかし、高原はそれを当たり前のように許している。
「問題ない、二人しか使ってないんだ、半分借りてもまだ余るだろう」
そして、いつもヒヤリとするような冷たい無表情の彼しか知らない迫田や中津川を驚かせるような、楽しそうな笑顔を浮かべた。
「それに、そこの迫田は強いぞ?お前も手合わせして貰ったらどうだ、崇史?」
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