恋人の日

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「ハル、いるか?」 スパン、と襖が開けられて、部屋に入ってきたのは仕事の相棒兼恋人の迫田(さこた)だった。 中津川は、びくぅっと背中を震わせる。 何故なら、彼は、ただいま自慰の真っ最中だったのだ。 敷かれた布団の上にエロ本を広げ、下着を半分擦り下ろして、ポロリと飛び出したムスコを片手で握っている。 そんな状況のところに突然第三者に乱入されては、せっかく元気になりかけていたそのムスコが、急にへにょりと萎れてしまっても仕方がないだろう。 「さ、さ、迫田サンっ…な、なんスか、急にっ!いっ、今、俺、取り込み中、ッス!」 迫田は、中津川の状態を見てとって、ハア、と大きくため息をついた。 「見ればわかる。バカだバカだとは思っていたけどな、ハル…いくら自分の部屋とはいえ、扉すらない、隣の部屋とも廊下とも襖一枚隔てただけの部屋ん中で、普通はオナニーとかしないだろ」 中津川と迫田は、宇賀神の屋敷内に住み込みだ。 迫田は武道が強く、その実力は宇賀神会の中でも三本の指に入るぐらいであるため、会の中でもそこそこの立場にいて、ちゃんとした個室を与えられている。 しかし、中津川のような特段めざましい活躍もない下っ端は、襖で仕切られただけの四畳半の和室だけがパーソナルスペースとなっていた。 二人は現在、宇賀神会会長の次男坊の護衛役として、普段は「坊っちゃん」の一人暮らし先のアパートに、交替要員も含め男四人ぐらいの共同生活をしているが、今日は久しぶりの連休でこっちに戻ってきていたのだ。 「だっ、だって、じゃあ、みんな溜まってるときはどーしてンすか?」 「あ?フーゾク行くとか、オンナんとこ行くとか、いくらでも方法はあるだろ」 「えー、だって風俗はカネかかるし…俺、オンナとかいねぇし…つか、迫田サンが恋人だから、ヘーソーカンネン?ちゃんと守れって言ったンじゃねえスか!」 「貞操観念、な」 迫田は、少しその強面を歪めた。 彼特有の笑い方だ。 慣れていない相手には怖い顔なだけで、とても笑っているとは思わないだろう。 「そうだな、ハル。ちゃんと俺の言いつけを守って、貞操観念を守ってるのは偉かったな」 彼は手を伸ばして、不貞腐れた顔をしている中津川の頭をくしゃりと撫でた。 中津川は、喉元を撫でられた猫のように目を細める。頭を撫でられるのはキモチイイらしい。 そんな「恋人」の様子を眺めながら、迫田は言葉を続けた。 「だがな、それなら、溜まってるときは恋人の俺を頼ればいい。というか、溜まってるんだな?」 「え…あ、そーっスね…って、頼るって何をどーすればいーんスか?」 「ナニをどうにかしてやる…出かける用意をしろ」 「へ?」 「早くしろ…というか、その萎えたムスコをいつまでもプラプラさせとくな、少しは羞じらえ」 もう一度深いため息をつきながら、迫田はその指でピン、と中津川のヘタレたムスコを弾く。 中津川は悪びれたふうも恥じらうふうもなく、ヘラヘラと笑った。 「あー、スンマセン、迫田サンが来たことにビックリしすぎて、しまうの忘れてましたあ」
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