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劇鉄を起こした。カチリ、とシリンダーとその周辺部が軋みあった音が、僕と彼の脳を揺らした。引き金にかかった指はカタカタと震えているのが見え、
心底、呆れたような感情を抱く。
「あぁ、もういい」
堪忍袋の緒が切れた、そんな音が僕の頭の中で響いた。抜き手のように伸ばした右腕でフリーマンから強引に拳銃を奪い取ると、すぐさま銃口を彼の首もと辺りに向け引き金を絞る。祖父は自分の握力でも発砲できるようにか、トリガーの張力を軽いものにしていたようだ。思っていたよりも容易にハンマーが叩き下ろされた。
カシン。生を勝ち取ったにしてはあまりにも無機質な祝音が響き、フローリングに吸い込まれる。僕とフリーマンはお互いに硬直したまま10秒ほどそのままでいた。額から流れた冷や汗が喉元を通り過ぎ、スーツの内側に吸い込まれていった。部屋にかけていた冷房が効いていないはずはないのだが。
「本当に撃つバカがいるかよ」
「本当に撃てない腰抜けといわれるよりはマシだろ?」
フリーマンはまるで僕が道化の皮を被ったサイコパスであるかのような目つきを向けていた。哀れみ半分、畏怖半分を圧縮して粉末状に崩し、両目に均等に振りかけていた。文句があるなら口を動かしな。僕はそんなメッセージを視線に乗せてアンサーを返してやった。
「メイ」
背後で扉が開いた。祖父の使用人であるカルロスが、撫でつけた髪の毛を手で触感を確かめながら、僕を視界に入れずとも「僕がその部屋にいること」を知っていたかのように名前を呼びながら姿を現した。
グレードに対して「致命的に似合っていない」、いうなればスーツに着られていると形容できるフリーマンとは対照的に、決して質の高いグレードではないモデルのスーツを小奇麗にまとめ、一折の皴さえ認めさせないかのような風情が、大人の余裕というものをこれでもかと醸している。上唇から伸びる細い口髭は、ナマズをみながらしつらえたのだろうか。
銀縁の眼鏡から覗かせる眼光は刃物のような鋭さをもちながらも、厳重にタオルでくるまれているような柔和さも兼ね備えている。
その芯の鋭利さが、どうにも僕は好きになれない。
カルロスはフリーマンに一瞥をくれると、小さくおじぎをして僕に向きなおした。
「それはウィンストンさんの私物ですよね。危ないですから返しなさい」
「もうそんな年ではないよ」
「嘘ばっかり。私には大方、あなたが何をしていたかくらいわかりますよ」
「カルロスさん……これには理由が」
フリーマンが口をはさんだ。
「理由。理由ですか。あなた達自身がプロデュースする、その【ちっぽけなラッパーグループ】をプロモーションするために、わざわざ命を賭してロシア式の危険な遊びをすることが、私を納得させる正当な理由になるとでも」
「弾は入っていない」
弾倉をスイングし、差込口を逆さに向けた。フリーマンの目が開いた。
「な、おい。まさかお前、俺をだましたのか」
「その方がいいだろ。本当に命をかけた人間にだけ作れる表情ってのはあるんだ」
なるほど。カルロスが仲裁するように割って入った。
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