本編

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「命をかける、ですか」  カルロスの目が細くなった。ああ、きっとそうだ。僕の中にあるモヤのかかったビジョンに一つ、人影の輪郭を捉えた気がした。僕の前進を阻むボタンやらスイッチやらは、カルロスが握っている。根拠と呼べるものはない。それでも、彼が今見せたハーレーダビッドソンのハンドルのような、歪に曲がった笑みは、間違いなく陽の当たりつづけるような世界で得られるものはない。 「仮にですが、メイ。この銃に本当に球が装填されていて、フリーマン氏が運悪く死ぬことになったとしたら、あなたはどうしたというのですか?」  僕は自分とカルロスの間に配置されたテーブル上のビデオカメラを持ち上げる。録画ボタンを切ることをすっかり忘れていた。 「昔、とあるブラックメタルのバンドがあって。そこの1メンバーが自殺した時、残されたメンバーが何をしたか。自殺現場を写真に撮ってアルバムジャケット画にしたのさ」 「そりゃないぜメイ」フリーマンが狼狽した。 「そんなことするつもりは毛頭ねえよ。ただ、フリーマンはその銃弾に弾丸が込められているかもしれないという状態で引き金を引くことが何よりも重要だったんだ」  カルロスは相変わらず微笑んではいるが、祝福はしていないと言わんばかりの目をこちらによこしたままだ。腕時計でちらと時刻を確認すると、視線を小窓から覗く外へ遣った。 「それでしたら、もっと簡単でスリリングな遊びを教えてあげましょう」  家から20メートルほど向こうに面する横断歩道が明滅し、信号は青から赤へと切り替わった。ここを通る車はほとんどいない。
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