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「どうしてそんなことをするのだ、メイよ」
祖父のウィンストンは書斎で、先ほどロシアンルーレットで使った【コルト・オフィシャルポリス】の手入れをしていた。銃を保管していた机と対面する形で向かい合っている。
彫りの深い顔はツヤが張っており、少なくて細い頭髪もかなり几帳面に整えているが、厚手のナイトガウンから覗かせる四肢は木の棒と見間違うほどにやせ細っていた。足を組んでいるせいで、ここは製材所なんかじゃないよな、と自分に一度言い聞かせるほどだ。
体重を預けているブラックウォールナット材で出来た胡坐椅子は老朽化が進み、ウィンストンが身動きをするたびにギシギシと今にも折れてしまいそうな唸り声を鳴らしている。
「あまりにも命を軽視しすぎではないか? 目をつむって赤信号を渡るだなんて簡単なことかもしれないが、仮に飲酒運転かヤクを決めたトラクターでも通りすがったらお前の命はなかったんだぞ」
「そんな奴が来たら横断歩道にいなくてもあぶねえよ」
ウィンストンが大げさに溜息を吐いた。
「俺も若いころはお前みたいにバカで命知らずだったさ」
「昔話は聞き飽きた」
「まぁ聞け。若い時はとにかく、俺は一度【死んでみたくてたまらなかった】。スリルを求めるとかそういうのではなくてな」
「死ねばよかったじゃねえか」
「そうじゃない。証明したかったんだ。俺が死なないように世界のどこかで複雑な操作を行っている組織の存在を、な」
思わずウィンストンに向きなおした。自分が今まさに、その存在を疑っていたもの同じことをこの男は考えていたというのだ。それも自分の両親が生まれる更に昔から。
「人間、死ぬときは死ぬ。でも、死なない時は必ず死なない。そうやってこの世の中はできている」
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