第二章 苦しみの始まり

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第二章 苦しみの始まり

  第二章 苦しみの始まり  彼のクローンの容姿は人間とは言えなかった。松村とデイビットはガラスの向こう側から新種誕生を、今かと待っていた。しかし誕生した新種は、予想をはるかに超えた狼のような顔つきに全身の毛が白銀で産まれてすぐというのに毛がみっちり生えており手足は大きく体はヒト科の生物のようだった。  「なんだあの生物は、デイブ君は失態を犯したようだ。見ろあの体まるでグリム童話の狼男ではないか。」松村は大きく怒鳴る。デイビットは何が起きているのか把握出来ず当惑していた。無理もないのである。全てはあの研究者立永による陰謀だからだ。  立永はヒョウセイマイクロブを奪われたことにより以降の研究は衰退していった。その為、仕事熱心な彼の私生活は荒れた。妻子と別居し酒に入りたびる暴挙な生活。そんな彼は必然的に研究職を辞めざるおえなくなってしまい勿論人生は崩壊した。しかしある男に立永は、出会ってしまう。  その男はダックスタウンという街に住んでいる。ダックスは穴熊という意味だ。 その起源には俗説が数多くよく分かっていない。しかし大航海時代に市長の祖先の〈黒羊〉ゴートという名を持つ団体の長マライヤ・ぺクレが穴熊に助けられたという伝説からこの名が付いたという説が濃厚である。その理由としては、複数の文献とマライヤの墓地には眠る彼の横に穴熊のミイラが複数発見されたからである。  とある立ち飲み居酒屋での事。羽を失った蝿のように苦しみ悶えている立永は、居酒屋をハシゴしていたのだった。 「らっしゃい立永さん最近毎日見かけるけど体は大丈夫かい。」立永は低い声で返事した。 「ビール、ジョッキで」店主は気前良さそうにはいよと言うだけであった。立永はジョッキを手にすると自らの立場を忘れる為、溢れる泡を楽しむ事も無く一気に胃に通した。ジョッキを置くと左にこのような場所には似つかわしくない服を着た男が立っていた。立永は隣の男に何となく話しかけてみた。 「あんた、いい服を着ているな。」するとその男は立永に興味を抱いたような表情を見せた。そして慈悲が顔を覆い尽くした。 「君は悲しそうだ。全て失ったのか。」立永は当てられて不機嫌になる。 「うるせえ」それを聞いてその男は名刺を出し立永にこう告げた。 「私はハリス・ぺクレという者だ。君が助けを求める時に、この電話にかけたまえ。」そして男は夜の街に溶け込んでいった。  だが立永は困惑し沈黙したまま椅子に残り酒を浴びた。  あの出来事から七日たった夜の帳。立永は喪失を埋めることは出来ないと悟ってしまった。立永は、自分の友人の母が大家のアパートの二階に住まわせてもらっていた。このアパートは、昔は、駅から徒歩三分の人気のあった場所だったが、都市開発により駅が移転してしまい人は離れていった。また近くにあった大学も人工知能の養成学校になってしまい人は来なくなってしまっていた。そんな借り暮らしのアパートの一室で、立永は、今まさに自殺をしようとしていた。しかしその時usbの散乱したテーブルに置いておいたあの男の名刺が目に飛び込んできたのだった。立永は電話を死ぬ前にかけてみようと思いに至り電話した。電話の受信音が旋律を描きフィナーレを迎えた。 「やはり君か」立永はこの時、自分のしていたことを見られているような感覚になった。そしてこの男に全てを委ねようと考えた。 「私は地球外生命体学の有名な研究者だった。しかしスポンサーだった富豪に全ての研究成果を奪われてしまったのだ。助けてほしい。」電話の向こうは沈黙に溢れる。立永が、返事を求め薄い会話を続けようとしたその時。 「そのために私はいるのだ。」 短い電話を通した会話は途切れた。  玄関の戸を叩く音が、立永を休ませない。 立永は恐る恐る玄関の覗き穴を見た。すると大家が立っていた。立永は、ほっとして戸を開けると大家が挨拶をすると話し出した。 「ごめんねえ。最近家を空けてたみたいだからさあ。仕事の方はどうなの?」大家のお節介が、立永の苦しみを何倍にも増幅させた。 「仕事は、今していません。」大家は驚いた素ぶりを見せたが、明らかに事情を知っていた。この反応に立永の苦しみは、恨みへと変化した。大家が続ける。 「お仕事を探してそろそろここを出て行ってくれないかねえ。そろそろここを、取り壊したいのよ。」立永の怒りは弾け、鉄製の傘立てで、大家の顔を何回か殴打した。自我を保った時には、大家は潰されたゴキブリのようになっていた。立永は急いで大家を、玄関に置き血のついた傘立てを大家の隣に置いた。そして玄関に鍵を閉め急いで浴室に行った。そして洗濯カゴの台ふきんと水を入れたバケツを持って外に出た。玄関は血まみれで、鮪をさばいた後のようになっていた。立永は、焦って玄関を掃除した。その際に後悔と血生臭く染まっていく台ふきんを見て嘔吐した。あたりが暗くなりアパートの薄暗い蛍光灯の灯りを頼りに、証拠を隠滅していた。犯行から3時間立ちようやく綺麗になった。何回も血水の入ったバケツを浴室に捨てたせいで、部屋中血まみれだった。まだ生暖かさの残る大家を抱え浴槽の中に入れた。浴槽とぶつかる屍肉の音は、忘れもしないだろう。立永は重要なものだけを、荷造りしタクシーを呼ばずに住宅街の中を、疾走した。色んな家が目につくがどれも異なりまるで、人のように思えた。しばらく走ったが、途中何度も嘔吐した。深夜にようやく駅前のインターネットカフェに着き休憩した。しかし電話が鳴りその電話の主が友人だと知り目覚めたが、疲れのあまり寝ることができた。朝目覚めると心地が良かった。しかし恐怖が立永を、支配した。  しかし大家の家には、同居している立永の友人がいた。仕事から帰った彼は、家の明かりが台所の一部しか点いていない事を外から発見し、急いで家に入って母の名を呼んだ。母は脳に病気を患っており、たまに気絶してしまうほどになっていた為、立永の友人が介護する為、実家暮らしを強いられていた。しかし肝心の母親が書き置きもなく家におらず 不審に思った。立永の友人は、母に電話をかけたが、出なかった。しかしこの近所で、事件に巻き込まれるなどあり得ない。なぜなら近所はほとんど空き家だからだ。立永の友人は、昨日アパートの取り壊しについて議論し取り壊す事にした。しかし立永を、説得するのは自分の役目だと母に言い聞かせていた。しかし母がアパートに行っている可能性を考えて立永に電話した。電話は勿論繋がらない。 急いでアパートに立永の友人は、向かった。 アパートに着いたが異様な光景だった。二階の立永の玄関前から一階のコンクリートに新しい水が、流れていた。そして1階のコンクリートには、薄ピンクの水が動いていた。 階段を一つずつ登るが、足取りは重くなっていき、息が途切れてきた。ようやく登り息を整えながら玄関に向かうと不思議な事に濡れてはいたものの綺麗であった。玄関の戸を叩いた。しかし返事もなく鍵も空いていなかった。男は、恐怖に打ち負け警察を呼んだ。警察の到着を待つ間スペアの鍵を管理人室から取り出して部屋の戸を素手で、開けてしまった。玄関は血だまりを引きずった跡や、水で薄まった血雫が浴室まで伸びていた。あまりの恐怖に男は腰を抜かし大声で、叫んだが誰にも届く事は無かった。しばらくするとサイレンが、男の鼓膜を引き裂いた。警官が下りた音がして車のドアが閉まる。立永の友人は、急いで大声を出し助けてくれえと叫んだ。警官たちは焦り階段を登ってきた。警官たちは玄関を見るや否や応援を呼び中には入ろうとしなかった。  インターネットカフェで、目を覚ました立永は、殺人事件の速報を調べた。するとアパートから、大家の遺体が出たというニュースを見つけてしまい。心臓の鼓動が跳ね上がった。 急いで逃亡をしようと外に出て電車に乗りダックスタウンへと逃亡しようとした。しかし残金が、底をつきひっそりとした知らない土地の公園のトイレに隠れた。そしてあの男に電話をかけた。しかし電話は繋がらない。立永は焦った。何度も何度も電話をしたが繋がらない。とうとう諦めかけたその時に電話が鳴った。電話に出ると立永の友人だった。 「お前今どこにいる。お前の部屋から、俺の母親の死体が出たんだ。すぐに戻って来い。警察に疑われているぞ。」立永の友人は、逆探知をしようとしている。立永は、焦って電話を切るとトイレに投げ捨てて外に出た。すると大柄の黒スーツの男がいた。立永は恐怖のあまり発狂をした。 「静かに車に乗ってください。迎えに来たんですから。黙っててください。」黒スーツの男は、思ったより優しい声で立永を車に誘導した。車は、非常に一般的な乗用車だった。車に乗ると窓は内側から黒く塗られており何故か、外から見ると誰も乗っていないように見える仕組みだった。しばらくして立永は、質問した。「あんたは、何者なんだ。どこに連れて行くんだ。」黒スーツの男は、微笑み着けば分かりますよと言うだけであった。
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