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第二章
多感な少年時代、会える日はそれほど多くはなかったものの、母から隠れて漪暌と親交を持つことは淪曄の密かな楽しみとなっていた。
淪曄は漪暌の訪れを心待ちにし、自身の支えとして今日までを生きてきた。
そして、淪曄が十五になったある日のこと、淪曄の母である淑妃がこの世を去った。
詰られ、時には手を出されもしたが、それでも二度と会えないとなると寂しかった。
結局淪曄は『優しい母上』には会えず終いだった。
淪曄の努力が届く前に、彼女は遠くに行ってしまったのだ。
部屋の片隅で独り静かに泣いていた淪曄の元に、久しぶりに漪暌が訪ねてきた。
「淪曄、遅くなってすまない」
背後にふわりと感じる温もり。
彼の形のいい指先が淪曄の目尻をそっと拭う。
「これまでは淑妃様がいらっしゃったから、あまり会いに来られなかったのだ。私は貴妃の子……淑妃様からは良く思われていなかったからね」
「ならば! 今後は……」
――今以上に会いたい
咄嗟に浮かんだ思いはそれだった。
だが、それを自ら口にすることは果たして許されるのだろうかと、淪曄は静かに視線をそらした。
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