第三章

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第三章

 初めて兄と身体を繋げてから程なくして、淪曄は宴の席に呼ばれた。  吹き抜ける風が暖かいから暑いへと変わりつつある、そんな庭先での一幕だった。  とはいえ、常ならば淪曄がそこに姿を見せることはない。  既に母も亡くひっそりと暮らしていた公子ゆえ、元より呼ばれること自体も少なかったが、最早淪曄が人前に出てこないのは言わずと知れたこととなっていた。  そんな淪曄が宴に姿を現したものだから、皆淪曄に好奇の目を向けた。  別に今回は皇帝が呼びかけたものでもなく、下位の妃が主催の内輪向けのものである。  それでも淪曄が今この場にいるのは、直接漪暌から参加してほしいと請われたからだった。  淪曄はこの場の隅のほうに、あまり気配を感じさせず静かに佇んでいた。  本来、公子がいるには相応しくない。  だが淪曄にとっては却って心地が良かった。 相変わらずちらちらと視線を感じるが、ある程度は仕方ないと諦めた。 珍しいものに関心を持つ気持ちは淪曄にも十分に理解出来るものだった。  そして、当の漪暌は場の中心にいる。  遠くから彼の姿を目で追っていると、突然漪暌は大きく手を振って淪曄の名を呼んだ。  手招きに導かれて彼の側まで行くと、右腕で肩を抱き寄せられる。  観衆の注目が一気に集まった。 「皆、あまり知られていないだろうが、淪曄は二胡の名手なのだ。珍しくこのような場に顔を出してくれたことだし、是非聴いてやってくれないか?」
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