あなたは誰かの運命の人

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『夕飯の買い出し』 『ゆうはんのかいだし』 全てを平仮名に変換して思い浮かべた所で時間稼ぎにもならない。差し迫った用件なんて一つもない。いや、なくなってしまったのだ。 対面で二人は座れるテーブルに投げ出された手帳を開けば未定になってしまった予定と三日前に生き絶えた日記の文面が虚しく並んでいる。所々滲んで掠れていたのは私から洪水の如く溢れた涙のせいだ。 腹の底から出た溜息の後、ぶるぶると首を振る。いけない。何かしていないとまた頬の上のダムが決壊してしまう。そうだ、洗濯が終わる前に買い物を済ませてしまおう。 誰に急かされる訳でもないのに私はそそくさと身支度を整えて、玄関に置かれたスチールの傘立てに手を伸ばす。 『お前ってさぁ』 びくりと、肩が震えてしまう。 落ち着け、…落ち着け!幻聴だ。彼はもう私がいなくてもなんの問題もないのだから。頭では分かっているはずなのに、どうして上手くやれないのか。ぴたりと傘を手に出来なくなった私は鬼に影を踏まれた敗者だった。
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