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ここはシーデン市、混沌渦巻く街である。
その一角にある市庁舎の二十七階、第三十五部署がある部屋の中でこんなやり取りが繰り広げられていた。
「………あの中央区画の端に居る赤い服着たおじさんっていったい何なんですか?通りがかる度気になって仕方ないんですけど」
「知らんのか?彼はああして思い人を待っているんだ」
そんな新人リベックの気になっていたことを少年の様な姿をした上司のゾーロに伝えると、そう答えが返って来た。
「へー知りませんでした、どんな人を待っているんでしょうか?」
「それは解らん、けれどどんなに人が声を掛けても『待っている人がいる』としか答えないそうだ」
「そうなんですか」
その話を聞いた、ソファスペースでごろりと横になっていた、オレンジの髪と眼鏡が印象的な先輩のキアナがのそりと起き出してきて、
「だったら誰待ってるのか聞きにいかない?」
「……は?」
「え?今からですか?」
キアナの提案に驚きつつも、今仕事はのんびりとした状態でいけない訳ではない状態だった。
「………行ってくるか?」
「行こうよー」
とゾーロとキアナからの言葉に耐え切れず、
「解りました、行きますよ!行きます!」
「やったー!」
両手を上げて喜ぶキアナと、「結果の報告待っているぞ」とばかりの笑みを浮かべるゾーロ。
仕方ないとばかりに出掛ける用意をすると、キアナと一緒に第三十五部署を出て中央区画に向かうのだった。
そこでいつも彼が居る場所へ向かうと、案の定今日も彼はいた。
リベックが柱の陰から覗くと、
四十代くらいだろうか、白髪が混じり始めた髪の毛を丁寧に梳かして、真っ赤な赤いワイシャツを着て、空き物件になっているシャッターの前でじっと立っている。
声を掛けようにもどうかけていいか解らないのが、リベックの感想だった。
けれどキアナはそうでなかったらしく、
「それじゃ聞いてくるねー」
と言ってその男性の元へと歩いて行く。
「キアナ先輩、行動力ありすぎ……」
とリベックは呟くのだった。
そうして二人がやり取りしているのをギリギリ聞こえない距離から見つめる、すると笑顔でキアナが帰って来た。
「ど、どんなでした?」
「んーとね、随分前にお別れして思う一度会おうねって約束した人を待ってるんだって」
「それは男性?それとも女性?」
「…えーと、教えてくれなかったかも」
「それじゃ意味無いじゃないですか」
「なんで意味無いの?」
「えと……それは………」
男女の違いを説明せよと言われても、違うとしか説明できないし、どうしてその説明が必要なのかもリベックには説明できなかった。
「も、もう一度聞いてきてくれませんか!」
「えー今度はリベ君行ってよ、オレ行ったからさー」
「いや、あの…その……」
「ほら行くー!」
キアナに押し出されて赤い服を着た男性の前まで来て「あのー」と慎重に声を掛けるリベック。
「どなたかを待ってるって聞いたんですけれど、どんな人を待っているんですか?」
「……………大切な人さ」
「それは男性ですか?女性ですか?」
「……………両方さ、友人何人かと戦争で生き延びたらここで赤い物を身に纏って会おうと約束したんだ」
「そう……でしたか…。すみません、不躾な事を聞いてしまって」
「…………………」
「それでは、ありがとうございました」
そうリベックは言うと、そそくさとキアナの元に戻って来た。
「色々と解りました」
「なら戻ろうか?」
「……はい」
そうして二人は市庁舎へ戻ると、ゾーロへ報告した。
『戦争前に生き残ったらあの場所で赤い物を身に着けて集まろう』と言っていたと。
「最近会った戦争ってどれくらい前でしょう?」
「四十三年前の南部戦線突破だろうな、あれはかなりの死傷者が出た最近で多い戦争だな」
「………四十三年」
「ずっと待ってるのかな?」
そういうキアナに、リベックは、
「あの人が諦めない限り、ずっとあそこに居ますよ」
「……うん、そうだね」
そう笑みを浮かべあいながら、件の男についての話はこれ以上は進む事は無かった。
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