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「よく出来ているだろう? 遠目には、本物にしか見えないね」
お絹は、目を吊り上げた。
「紛い物なの?! うちの店は、紛い物なんてっ」
「あたしが、仕入れた。白珊瑚の表を、赤く染めたものさ。もしも役人に何か言われたら、叩き割ってみせりゃあいいんだ」
いたずらっぽく言って、にやりと笑った清太郎の顔に一瞬、常とは異なるややふてぶてしい表情がよぎった。
「もっとも、あれだけ良い色に染め上げるのは並大抵じゃないと言うし、足はちゃんとした銀釵を流金で仕上げたものだから、別に悪い物でもない。偽りを言って売るのでなければ、紛い物にはならないよ。それに、晴れの日だもの。やっぱり赤は、何より女を引き立たせるからねえ」
また、お吉が嬉しそうに、髪へと手をやった。
本当に、あれも駄目これも駄目と、お上の仰ることは分からない。
あんなにも女の心を浮き立たせるものを、みいんな取り上げちまう。
おせんちゃんが、新しい役者絵をこっそりと自慢したがるのも無理のない話で、お上は今、芝居のことも錦絵のことも、すっかり目の敵にしているのだ。
と――
※銀釵は銀の簪。流金とは滅金のことです。
素銀の物もありましたが、流金を専らとすと、守貞漫稿に見えます。
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