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三
「ああっ、来た!」
別に、向こうから見られる気遣いは無いのだけれど、お絹は思わず亀の子のように首を縮めた。
いかにも田舎のお百姓という素朴な風情の二人連れ。決して裕福そうではないが、ひどい暮らしの水呑百姓のようでも無い。
年配の男の方が、お吉の伯父さんだろうか。
お吉が立ち上がり、双方ぺこぺことひとしきりお辞儀をし、二、三言葉を交わすと、お吉が破顔した。
おずおずと前へ出てきた純朴そうな若い方の男は、お吉に何か言われて赤くなっている。
真っ黒に日焼けした顔は、決して美男の部類ではないが、まなざしはとても優しかった。
「ふぅーむ。ありゃあ、知った仲かねえ。久方ぶりに顔を合わしてみたら、女が江戸の水に磨かれて、すっかり綺麗になっていたんで肝を潰している――て、顔だ」
ひょこりと覗いて清太郎が、勝手な想像でもっともらしく講釈を垂れた。
でも、当たらずといえども遠からずだろうとお絹も思う。
お吉は江戸で生まれ育って、十二の年から井筒屋に奉公しているが、伯父さんの家というのは他ならぬ母親の実家なのだから、奉公に出る前の子どもの時分なら、遊びに行ったことも、土地の子どもと知り合う機会だって、あったかも知れない。
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