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「なぁんだ。これなら、特に波乱も何も無さそうだなぁ」
いかにも呑気らしい口調で、清太郎が言った。
「あってたまるもんですか!」
「いや、実際心配していたんだよ。東国の貧しい田舎じゃ嫁は、重宝な働き手として朝から晩まで牛馬のように追い使われる。そして、子が出来なければ追い出されるが、沢山作れば今度は間引かなければならなくなる――そんな話を、よく聞いていたものだから」
「……誰、に?」
しかし、その問いは清太郎の耳には入らなかった様子で、どこか遠い目をしてぽつりと、つぶやくように、
「だから、いっそ女郎でしあわせだった。わたしは、運が良かった――だなんて、そんな、こと……っ!」
「女郎?!」
「あっ、いやいやいや! 女郎ではなくっ」
我に返った様子で清太郎は、またあわあわと言い訳をする。
清太郎を産んだ母親が、女郎上がりのお妾だったということを、お絹はまだ知らなかった。
「ほら、その、つまり、ええと――」
そうして二人が揉めているうちに、お吉は店の者から何か包みを受け取り、三人は早々に甘味屋を後にした。
見合いとは言っても、話はほとんど決まったようなもので、これからお吉の母親の元へと行くのかも知れない。
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