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 ああ、お吉が受け取っていたのは、売り物の葛切りを包んでもらったものだったのだ。  葛切りならば、きっと病の母親でも食べられるだろう。  そんなことまで考えて清太郎は、お吉にこの店を教えてやったのだろうかと思いながら、もうそばがきで大分お腹はいっぱいだったけれど、逆らわずに後へ続く。 「まいどあり」  蕎麦屋の若い女中が、表まで見送りに出てきて、頭を下げた。  その髪に置かれているのは、赤い塗り櫛だ。  何の飾りもない素っ気ないものだけれど、確かに女の黒髪には赤がよく似合うと、お絹も思った。  その時。  ひょいと手を伸ばして、実にさりげなく。  櫛が、少し曲がって落ちそうになっているのを清太郎が直してやると、女中は忽ち、ぱああと頬を染めた。  お絹は、思い切り清太郎の足を、蹴飛ばしてやった。
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