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 それなのに。  それなのに、それなのに!  よりにもよって、うちの女中にちょっかいをかけるだなんて!  お吉は、良い女中だ。  清太郎のやつにたぶらかされて、ふらふらとなっているのに違いない。  そういえば、あの甘味屋の葛切りが近頃評判だということは、お絹も清太郎に聞いたのだった。今朝、大黒屋の小僧が、今日は来られないという清太郎の文を持ってきていたっけ。  足が次第に速まり、小走りになっていく。  ……あれ?  焼き餅を焼くってことは、あいつのことを好きってことになるのかな。  何だか、よく分かんない。  分からなすぎて、頭の中がぐるぐるする。  とにかく。絶対に、絶対に許さないんだからっ!  けれどさすがに、お吉と清太郎の逢い引きの現場へ踏み込むほどの勇気は無かった。  あのまま何も知らずに鉢合わせたりしていたら、どんなにか間の悪いことになっただろうかと思うと、ぞっとする。  ああ、いけない!  おせんちゃんとおまっちゃんが、甘味屋に行ってしまう。  二人とも幼友達でご近所だから、当然お吉のことは知っている。清太郎のことは、彼が店先に立ち始めた頃、役者のようだの何だのとひとしきり噂になったのだから言うに及ばずだ。  いったい、友達に許嫁と女中が逢い引きしてる所を見られるなんて不面目があるかしら。あの二人のことだもの、あっという間に町中の評判になっちまう。  お絹は、慌てて再び踵を返した。  途端に――
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