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ぼふん、と人にぶつかった。
「あっ、すみま――」
「おやおや、お絹ちゃん。一体何を走り回っているんだい? 鬼ごっこか? こんな往来で?」
「なっ――――!!」
いつも通りの、のほほんとした笑顔で清太郎が立っていた。
ものすごい勢いで駆けてきた女の子とすれ違い、それがお絹と気付いて振り返ってみたところ、絶妙の間でお絹もまた振り返ったために、ものの見事にぶつかってしまったものらしい。
「あっはは、まるで金魚みたようだよ。そう真っ赤になって、口をぱくぱくしていちゃあ」
けろけろと笑いながら、お絹のことをすっかり子ども扱いにして、それから、ふと気が付いたように少し悪い顔で、にまりと笑った。
「ああ、そうか。お絹ちゃんも、首尾を見届けに来たんだね」
「……しゅび?」
不心得顔にお絹が首を傾げたその時、きゃぁきゃぁと黄色い嬌声とともに、おせんちゃんとおまっちゃんが駆け寄って来た。
「なぁんだ、逢い引きだったの。お安くないのねぇ」
「そんならそうと言ってくれれば、邪魔なんかしないのにさ。大っぴらな仲なんだし」
「ねぇーっ!」
最後は、二人声を揃えてきゃらきゃらと笑う。
「ちっ、違……っ」
おまけに、邪魔はしないと言いながらも一向立ち去る気配を見せず、ことにおせんちゃんなど、頬を上気させてぽうっと清太郎の顔を眺めている。
あんた、さっき、新しい役者絵が手に入ったから見せたげるとか言ってなかった?
いい男なら、誰でもいいのか。
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