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むろん清太郎は、そんなことには慣れっこで、如才なくにっこりと微笑んで、まるで手妻のように袂から取出した金平糖を二人の手のひらに落とし込み、
「このことは内緒にね」
唇の前に人差し指を立てて、涼しげな流し目をくれた。
高価で美しい砂糖菓子に、二人が歓声を上げる。
なんだか、無性に腹が立つ。
この男は、いつもいつもこうやって女子どもをたぶらかすのだ。
おかげで、店の女中や小僧達からの受けも、異常に良い。
二人も忽ちうんうんと頷いて、
「げんまんよ!」
清太郎の、男にしては色の白い、細くて長い指を奪い合った。
ああ、ほんとうに腹が立つったら!
大体、この二人をこんなことくらいで口止め出来るわけ無いじゃない。帰る頃にはもう、みんな知っているに決まってる。おとっつぁんならきっと、むしろ喜ぶのだろうけれど。
「さ、行こうか」
「行くって、どこへ?」
「お吉さ」
「はあ?!」
清太郎は、実に楽しげな足取りで、お吉の待つ甘味屋のある方へと向かっていった。
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