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「てか、いつの間にそんなに色々聞き込んだのさ」
まだ本当の家族でもなく、仕事を覚えるという名目で通って来ている以上、清太郎は母屋ではなく表の店にいることのほうがずっと多い。中女中であるお吉と顔を合わせる機会はごく少ないはずなのに、やっぱり放蕩息子恐るべし、と思ったが、意外なことに、
「いや、昨日、おっ母さんが。お吉は忠義で頼りになる良い女中だから幸せになって欲しい。本当なら近々自分が近所に良い相手を見つけてやるつもりで、先々も、何かの折には手伝いに来て欲しいとも思っていたけど、そういうことでは仕方がないと嘆いてた」
「まあ!」
おっ母さんってば、誰よりも清太郎のこと、毛嫌いしていたんじゃなかったの。いつの間に籠絡されてんのよ。しかもしかも、いつの間にやらもうすっかり、おっ母さん呼ばわりだ。
「ま、そういうわけで。どんな野郎が出てくるか、あたしが見届けましょうと間諜の役を買って出たというわけなのさ」
真摯な様子からまた一転してにこにこと胸を張ってみせる様子は、どこか母親に大役を仰せつかって大威張りの子どものようにも見えた。
実のおっ母さんは、早くに亡くしてしまっているというから、おっ母さんが出来てうれしいのかもしれない。この人が女好きなのも、もしかしたらどこかでおっ母さんを求めているからなのかも――
ふと、そんなことを考えて、相変わらずのほほんと笑っている清太郎の端正な顔を横目に眺めたお絹は、慌ててふるふると首を振った。
まさかとは思うけれど、おっ母さんにちょっかいなどかけられては、かなわない。なにしろ、かつては小町と謳われていただけあって、今でも十二分に臈長けた美人なのだ。
「……うん? どうかした?」
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