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「べっ、べつに」  動揺を押し隠すように視線を逸らし、窓の外に目をやり話を変える。 「なかなか来ないねえ」 「江戸と違って田舎ってのは、時の鐘まで随分呑気なものだと言うからね。人も、のんびりとしているんだろう」  相変わらずお吉は、所在なさげにきょろきょろと周囲を見回したり、そわそわと簪を直してみたりと落ち着かない。 「……ねえ。あの、簪――」  とうとうお絹は、一番気になっていたことを口にした。 「ああ、あれ。あたしが見立ててあげたんだよ、いいだろう」  事も無げに、清太郎が言う。 「――っ!」 「めでたいことには違いないんだし、餞別にね。あっ、いや、あたしが渡したわけじゃないって。おっ母さんに相談されただけだから」  途中から、お絹の目つきに気が付いたらしく、あわあわと言い訳をしはじめた。  確かに清太郎は、女遊びの甲斐あってというのもおかしいが、女が身に付けるものにはやたらと詳しいし、流行り廃りのことなど、長く小間物を扱う商売をしているお父っつぁんさえ舌を巻くほどだった。人ごとに似合う品を見立てる目も確かで、赤い玉簪は実際、お吉の艶のある黒髪によく似合っていた。 「でも……だって、あれ、高いんでしょう?」 「おや。お目が高いねえ」  清太郎は、少しからかうような口調で言って、くすりと笑う。  小間物問屋の娘だ。そんなことくらいは知っている。  やや黒みを帯びた深い赤色。  数ある珊瑚の中でも、血赤の珊瑚は(あたい)がべらぼうなのだ。
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