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 清太郎は、甘味屋へは行かなかった。 「こっちこっち」  そそくさと、はす向かいの蕎麦屋に入って、甘味屋の店先が見える位置に陣取り、慣れた様子で酒とそばがきを頼んだ。  昼間っからお酒だなんて!  お絹がむくれていると、 「ごめんね。お絹ちゃんには甘い物の方が良かったろうけれど、それじゃさすがに気付かれる。ここのそばがきは旨いから、お食べよ」  と、何だかずれた謝りを言った。 「どういうことよ」 「え」  清太郎は、一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、それから、 「こりゃあ、あやまった」  まるで幇間みたいに、ペしんと額を叩いた。 「お絹ちゃんは、知らなかったのか」 「だから、何がよぅ」  口を尖らせるお絹に清太郎は、殊更に声を低め、重大な秘密めかして言った。 「お吉は今日、あそこで見合いなんだとさ」 「嘘。だってお吉は、自分のおっ母さんの具合が悪いからって……」 「そりゃあ、万一不首尾だったら、朋輩達にきまりが悪いじゃないか。お父っつぁんとおっ母さんは、ちゃあんと承知していたよ」  そうだったのかと、なんとなく安心するとともに、知らぬは自分一人かとお絹は、また小さくむくれた。
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